【コラム】エヌビディア、ばらつく成長予想が将来の不安材料(24年6月25日 ブルームバーグ日本語電子版無料版)

 

記事(Nir Kaissar)

 

(1)「エヌビディアの株価は過去5年間で4000%上昇」

圧倒的な存在感で急成長を遂げる企業が出現する。人工知能(AI)半導体の巨人、米エヌビディアのことだ。

同社の株価は過去5年間で4000%上昇し、マイクロソフトとアップルに並び、世界で最も価値ある上位3社の一角を占める。

 

(2)「市場シェアは90%、売上高に対する利益率は57%」

AI半導体の市場シェアは約90%、売上高800億ドル(約12兆7800億円)に対する利益率は57%と非常に高い。

過去5年間の増収率は年64%と、S&P500種株価指数の構成企業の中で最も高い。

  

(3)「投資家はエヌビディアの将来の成長が現在の株価の後ろ盾だという」

同社は投資対象としてはどうだろうか。

バリュエーションも考慮する必要がある。急成長を遂げ、収益性の高い企業にはプレミアムがつく傾向がありエヌビディアも例外ではない。同社の株価収益率(PER)は過去1年の営業利益ベースで76倍と、S&P500種構成銘柄の3倍余り、マイクロソフトやアップルの2倍だ。

投資家は間違いなく、エヌビディアの過去ではなく未来に期待しており、将来の成長が現在の株価の後ろ盾だと主張するだろう。

 

(4)「マイクロソフトとアップルなど成熟企業の将来利益の予測には不確実性が小さい」

アナリストが将来の利益を予測しようとすると、企業によって予測は不確実になり、その不確実性が他社よりも強くなることがある。

マイクロソフトとアップルは成熟した企業であり、スクリーンを持つほぼすべての人を含む盤石な顧客基盤の上に利益を生み出している。

 

(5)「AI市場やサービスにおけるエヌビディアの役割が未定」

一方、エヌビディアは、より有望かもしれないが、AI中心の新しい市場にサービスを提供しており、将来性や同社が果たす役割は定まってはいない。

  

(6)「アナリストの増益予測のバラツキはマイクロソフトやアップルの3~4倍」

エヌビディアの今後の成長については、マイクロソフトやアップル以上に意見の違いがあるだろう。ブルームバーグはアナリストの長期的な増益予測の標準偏差あるいは変動性を集計している。ばらつきが大きいほどアナリスト間で見方が一致していないことを示す。

それによれば、エヌビディアの長期成長見通しに対する変動性はマイクロソフトの3倍、アップルの4倍もある。

 

グラフ Nice Growth If You Can Get It

Analysts expect higher growth from Nvidia than the other tech titans, but there's disagreement about how much more

 

Source: Bloomberg

 

  

(7)「エヌビディアの見通し楽観的過ぎた場合、株価は見直され大きく調整される」

これは、現在の株価を正当化するための根拠を将来の利益に依存することのリスクを浮き彫りにしている。特にエヌビディアのように見通しが不透明な場合はなおさらだ。同社の成長予測のコンセンサスが楽観的過ぎた場合、株価は見直され、調整の余地は大きい。

  

 

(8)「米シスコシステムズは将来の成長期待で株価が高騰したがインターネットバブルが崩壊」

最近、エヌビディアとネットワーク機器メーカーの米シスコシステムズが比較されることが多いが、それには理由がある。今日のAIをけん引するエヌビディアの半導体のように、シスコは1990年代にインターネットブームを支えたルーターを製造し、インターネット関連株を巡る熱狂によって一時期は世界で最も価値のある企業となった。

この比較で最も参考になるのはシスコの投資家がいかに見当違いだったかだ。1991年から2000年までの10年間でシスコは営業利益を1年当たり71%拡大させ、2000年度には46億ドルの利益を誇り、PERは利益の233倍にもなった。今後も大幅な成長が続くという自信に満ちた予測が、高いバリュエーションを正当化していたことは間違いないだろう。

  しかしインターネットバブルが崩壊すると、シスコの運命は急速に傾いた。

01年度の営業利益はわずか2100万ドルにまで落ち込み、2年後に2000年の水準を回復したときにシスコのPERは39倍だった。それ以降もシスコのバリュエーションは低下基調にある。

  

(9)「新しく、動きの速い業界で明るい未来に賭けることのリスク」

同じような運命がエヌビディアを待ち受けているとは限らないが、新しく、動きの速い業界で明るい未来に賭けることのリスクを示している。

グラフ Going Down Slow

Cisco's earnings growth has been dispiriting in recent years

 

Source: Bloomberg

 

(ニール・カイザー氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を必ずしも反映するものではありません)

原題:Nvidia Stock Is Now Detached From AI’s Murky Future: Nir Kaissar

(抜粋)

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