春秋(24年6月24日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)参考程度には眺めても、それを公言するのは憚(はばか)られる。

あてにしない。引き写すのはもちろん、言語道断。新聞記者にとって、ウィキペディアとはそんな存在だ。だが先日、日経電子版で創始者ジミー・ウェールズ氏のインタビュー映像を見て、興味をかきたてられた。

 

(2)▼世界中の言語で書かれたフリーの百科事典。

誰もが編集に参加し、加筆したり修正したりできる。誤りや偏りがないか常時、チェックする人々もいる。設計思想の「根幹にあるのは事実を尊重すること」とウェールズ氏は語る。運営を支えているのは「良いものを作ろうと懸命に努力する思慮深い人たち」と強調していた。

 

(3)▼静かな言葉の底に、人間と知性に対する強い信頼と情熱を感じる。

噓をばらまく者よりも真実を希求する人間の方が多いし、最後は勝つ。そう信じなければ開かれた百科事典などという発想は生まれないだろう。ネットに登場した4年後の2005年、英科学誌ネイチャーが専門家を集めて記述の信頼性を独自に調査した。

 

(4)▼結果、科学用語についてはブリタニカと同じくらい正確、との記事が掲載された。

人の良識に賭けたウェールズ氏は、今のところ勝っていると言っていいのかもしれない。ウィキのサイトを読むと掲載基準は検証可能かどうかだ。1人なら間違いもあるが、皆で確かめ合えば事実に近づく。実は科学の精神そのものである。