春秋(24年6月22日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)数が少ないうちは単なる字幕。

しかしどっと増えれば「弾幕」に――。動画サイト「ニコニコ動画」の特徴は、見ている人の投稿が画面に文字で表示される点だ。賛同や批判が集中すると感想が画面をほぼ覆いつくし、アニメや動物などもともとの映像を隠してしまう。

 

(2)▼一見すると主客転倒だが、この機能が喜ばれた。

皆でひとつの映像を見る実感があり、他者の反応がはっきりわかる。文化の発信や楽しみ方の構造変化を感じさせた。ニコ動を「単なる動画プラットフォームではなく、2000年代の日本文化の震源地になり続けてきた場所」だと哲学者の東浩紀氏はSNSに記している。

 

(3)▼ニコ動の運営会社がランサムウエア(身代金要求型ウイルス)の攻撃を受け、動画共有や生配信などのサービスを停止した。

病院、電力、流通と近年、同種の攻撃が続く。ただし技術情報サイト「日経クロステック」によれば日本での被害は減っており外国に比べ少ない。身代金を払わない姿勢が奏功したと専門家は説く。

 

(4)▼ニコ動は簡易版でサービスを再開した。

機能は制限され内容は昔の動画だけだが、利用者は「懐かしい」と歓迎している。攻撃を受けた背景などは今のところわからない。本格的な復旧には長い時間がかかるという。苦境に陥った企業を救うのは信頼を培い、待ち続けてくれる顧客の厚みかもしれない。改めてそう感じる。