新興、老いる「けんぽ」離脱 保険料低い新組合へ 現役世代の負担軽減狙う 進まぬ医療保険改革映す(24年6月21日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)要点

若い社員が多い企業が中高年層の加入者が多い全国健康保険協会(協会けんぽ)を離れ、新しい健康保険組合を設立している。

保険料負担の抑制を狙う。

けんぽは加入者の平均年齢の上昇で、医療費が増えていた。日本の医療財政には現役世代が高齢者を支える仕組みがあり、負担と給付のバランスが問われている。

 

 

 

(2)新興企業の従業員らが6月1日に「VCスタートアップ健保」を創設した。180事業所のおよそ1万人が加入する。

 

(3)「健保組合」

 独自に保険料率を定められるのが特徴で、新組合は月の給料の8.98%(労使合計)に設定した。従業員らが以前に入っていた協会けんぽの料率は全国平均で10%(同)となっており、低く抑えた。

企業も従業員も毎月の保険料負担が軽くなり、その分を給与として還元することも可能となる。福利厚生も手厚くでき、新組合の吉沢美弥子理事長は「加入者が健康的に仕事ができ、生産性が高まる施策を進めたい」と話す。

新たな健保組合の加入者の平均年齢は35.5歳で、協会けんぽの46.2歳(2022年度)と比べて若い。

 

(4)「全国ケア業健康保険組合」準備中

介護業界でも22社が参加する「全国ケア業健康保険組合」の準備委員会が25年4月の設立に向けて動く。川添高志代表理事は「興味を示す会社は複数ある」と語る。

介護

従事者の平均年齢が38歳と若い。川添氏は健保組合の創設可能性がある分野として「成長産業であること、若い人の流入があること」の2つをあげる。介護は長く人手不足に悩む。若年層が多い利点を生かし、スタートアップの新組合と同様、保険料負担を抑えて人材の定着を狙う。

 

(5)協会けんぽ

若者が多い企業が離れた協会けんぽは、4000万人ほどの加入者をかかえる日本最大の公的医療保険の運営者だ。自前で健保組合をつくれない主に中小企業の従業員らが集まる。高年齢化が進んでおり、加入者の平均年齢は22年度までの10年間で2.2歳上がっている。

 

 

年齢が上がると医療にお金はかかりがちとなる。

協会けんぽの加入者1人あたりの医療費は年20万円を超え、この10年で4万円ほど増えた。「社員が若くて収入もあるなら、けんぽにとどまる理由はない」(健保組合関係者)という声も聞かれる。

 

(6)公費の投入

協会けんぽには毎年1兆円規模の公費が投入されている。医療費が比較的少ない若者らの脱退は痛手となる。

この先、大規模な離脱の動きに発展するようであれば、国の負担に響く恐れがある。

 

(7)健保組合

一方の健保組合は大企業を中心に個々の企業が設立する事例が多く、基本的には独立採算で運営している。

ただ、こちらも運営は楽ではない。日本の医療保険制度には現役世代が65歳以上を支える仕組みがあり、健保組合は年4兆円弱を拠出している。

 

(8)拠出金

健康保険組合連合会によると、およそ1380ある健保組合の収入合計は9兆円程度で、拠出金はその4割ほどを占める計算となる。高齢化で今後も増加が予想される。

65歳以上の医療負担を現役世代が多く担っている構図があり、日本の医療を巡る問題点として長く改善が必要だと指摘されている。

 

(9)健保組合

高齢化による医療費の増加を受け、健保組合の平均料率は75歳以上が加入する後期高齢者医療制度ができた08年度の7.38%から現在は2ポイントほど高くなった。金額にすると1人あたり年10万円以上の負担増となっている。

負担に耐えられず健保組合を解散する動きは少なからず見られ、08年度に1500近くあった組合は現在1400を下回っている。