データセンター用地、施設建設、運用 外資攻勢「大手クラウドは世界を移転するのでリスクも大きい」

データセンター、不動産誘引 サーバー1000万台超を同時稼働 外資7社攻勢、大和ハウスも(24年6月19日 日本経済新聞電子版)

 

記事(高槻芳、中島募)

 

(1)要点

不動産外資大手が日本のデータセンタービジネスに押し寄せている。

香港ESRやシンガポールのGLPなど7社が首都圏や大阪都市部に進出し、日本勢は大和ハウス工業が対抗する。

主要顧客のクラウド大手は4兆円規模の投資を予定する。生成AI(人工知能)の普及を見越し、巨大産業の陣取り合戦が続く。

 

 

(2)「物流倉庫の開発ノウハウを生かせる。同業のライバルが欧米に比べて少ないのもチャンスだ」。

(ESR日本法人)

大阪近郊で8月、国内第1号のデータセンターを開設する不動産大手、ESR日本法人の小林宏明ディレクターは語る。

従来のデータセンターは規模を示す最大電力容量で数メガ(メガは100万)ワットが一般的だった。

ESRはIT(情報技術)機器への供給電力容量約19メガワットで始動し、98メガワットまで拡張する。2025年に東京都西部で20メガワット、28年には60メガワットの拠点も予定する。

 

(日本GLP)

 25年2月、東京都多摩地区にIT供給電力で最大31メガワットの施設を立ち上げる。将来は全国で900メガワットの整備を目指す。

 

(グッドマングループ)

オーストラリア不動産大手のグッドマングループは茨城県つくば市で26年以降に1000メガワットにも達する拠点を開設する。

 

(3)「28年までに新設されるデータセンターは少なくとも2000メガワット」

データセンターはサーバーなどIT機器を大量に集めたデータ処理専用の「倉庫」だ。クラウドの運用や企業のデータ保管、AIの開発など幅広い用途に使われる。

28年までに新設されるデータセンターの最大電力容量は少なくとも2000メガワットを超える。消費電力200ワットの一般的なサーバー1000万台を同時に稼働できる規模だ。

調査会社のIDCジャパンは日本のデータセンター市場が27年に、22年の2倍の4兆円超になると予測する。

市場拡大を支えるのは生成AIの普及だ。大規模な計算基盤を必要とし、端末では処理能力に限界があり、データセンターが活用される。

 

(4)「外資が日本を狙う ESR、日本GLP」

日本にゴールドラッシュが来る――。外資不動産がそう気づいたのは早かった。

ESRは「20年ごろからアジア太平洋地区のデータセンターチームで日本展開を検討した」(小林氏)という。

日本GLPも22年にデータセンター事業に参入した。

両社は従来、日本では物流倉庫と商業ビルの開発に注力していた。経営資源の投入先を見直したのは、情勢の行方を見越してのことだ。

 

 

ディープラーニングの進化やクラウドの浸透を受け、大型データセンターの需要は発生するとされてきた。問題はアジアにおいて、どこが有力なビジネス拠点となるかだ。

 

(5)「シンガポールは19年、環境負荷軽減のため大型データセンター新設を禁止」

代表的なデータ集積地だったシンガポールは19年、政府が環境負荷軽減のため大型データセンターの新設を禁止した(22年に一部解禁)。

米中対立の先鋭化を受け、香港は日本や欧米の企業がデータを置きづらい地域となった。

その点、日本は政治的に安定し、通信や電力などインフラの品質も保証されている。運用を担当するエンジニアを確保しやすいのも利点だ。

商業ビル事業にも転換期が来ていた。新型コロナウイルス流行の影響で空室率が高まっていた。「データセンターは日本で培ってきた不動産情報の収集力や交渉力を活用できると見込んだ」と日本GLPの帖佐義之社長は話す。

 

(6)「23年以降、米クラウド大手が日本のAI市場の開拓に本格参入」

読みは当たった。

23年以降、米クラウド大手が日本のAI市場の開拓に本格的に乗り出し、データセンターに対する投資を加速した。生成AIに不可欠なインフラを整備し、自社のAIサービスの顧客獲得につなげるためだ。

 

(アマゾン・ウェブ・サービス(AWS))

 23年からの5年間で2兆2600億円を投じる。

(マイクロソフト)

 24~25年に4400億円、オラクルも24年からの10年間で1兆2000億円を主にデータセンター増設に充てる。

 

(7)「日本勢では大和ハウスが存在感」

外資不動産は日本で用地の取得や建屋の建設を担うだけでなく、従来はIT企業や通信会社の領域だったデータセンターの運用も手掛ける。海外で蓄積してきた運営ノウハウを生かし、電源や空調などファシリティー(設備)の管理にも手を広げる。

 

(大和ハウス)

日本勢では大和ハウスが存在感を見せる。20年にデータセンター進出を狙い、千葉県印西市で大型施設の開発を始めた。建設・運用を担う特定目的会社(SPC)では、米クラウド大手に太いパイプを持つオーストラリアのデータセンター事業者のエアトランクと連携している。

大和ハウスでデータセンター事業を担当する更科雅俊執行役員は「将来は運営にも取り組み、施設の利用価値を高めたい」と意気込む。

 

(8)「不動産投資信託(REIT)も参入 投資家の資金で施設建設し賃貸料収入を分配するモデル」

9月に東京都心に新たなデータセンターを構える米エクイニクスなど、不動産投資信託(REIT)も主要プレーヤーに浮上した。

投資家から資金を集めて施設を建設し、賃貸料収入を分配するモデルだ。ESRなど不動産各社もREITを持ち、開発資金の一部を市場で調達する。

 

(9)「2つのリスク」

 

1)「クラウド大手は世界中に拠点を置き臨機応変に移動させている」

業界全体を期待感が覆っているのは確かだが、リスク面を指摘する声もある。

クラウド大手は世界中に拠点を置き、事業の拡大余地が大きい地域を臨機応変に選んでいる。「契約期間はせいぜい10~15年。短期間で退去されて採算が取れない可能性もある」と国内データセンター大手の幹部は語る。

 

2)「電力を食う」

脱炭素への取り組みが広がる中で、膨大な電力を必要とすることが成長の足を引っ張る可能性もある。各施設は電力会社と連携するなど電力の確保には配慮している。構造やサーバー、運用などハードとソフトの両面で消費電力を抑える工夫も欠かせない。

(高槻芳、中島募)