子どもへの性暴力防ぐ 「日本版DBS」成立へ 教員らの犯歴確認、学校・保育所責任明確に 民間は任意の認定制度(24年6月19日 日本経済新聞電子版)

 

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(1)「雇用する学校や保育所など事業者の責任を明確に」

子どもと接する仕事に就く人の性犯罪歴を雇用主側が確認する制度「日本版DBS」導入のための法案が18日、参院内閣委員会で全会一致で可決された。

19日の参院本会議で可決、成立する見通しだ。学校や保育所など事業者の責任を明確にして、子どもへの性犯罪の防止につなげる。

 

 

 

(2)「こども性暴力防止法案」は雇用主の事業者に、子どもと接する仕事に就く現職の教職員や保育士、就職希望者を対象に性犯罪歴の確認を義務づける。

2026年度にも施行する見通しだ。

 

(3)「学習塾や認可外保育所、スポーツクラブなどは任意 広告で表示できない」

こども家庭庁によると義務対象の学校や保育所、幼稚園などで働く対象者は少なくとも約230万人に上る。

民間の学習塾や認可外保育所、スポーツクラブなどは任意の認定制度の対象になる。認定を受けると確認義務が生じるほか、広告での表示が可能になる。

 

(4)「性犯罪歴あれば事前に本人に通知、その後「犯罪事実確認書」」

事業者はこども家庭庁を通じて法務省に性犯罪歴の照会を申請して「犯罪事実確認書」の交付を受ける。戸籍情報の提出など本人も手続きに関わる。

性犯罪歴がある場合には事前に本人に通知される。2週間以内に訂正請求できるほか、内定辞退をすれば確認書は交付されない。

 

(5)「性犯罪歴のあるや、現場で「性暴力などの恐れがある」場合、職員を配置転換、不採用に」

性犯罪歴のある場合や、子どもとの「面談」を通して「性暴力などの恐れがある」と判断された場合、事業者は現職の教職員や保育士を子どもと接しない仕事に配置転換し、就職希望者は採用しないといった「防止措置」をとる。

どのような行為が「性暴力などの恐れがある」と見なされるのか、事業者はどのような措置をとるべきなのかなど曖昧な部分が残る。

(6)防止措置の具体例などは法案成立後に「できるだけ早期に」こども家庭庁がまとめる事業者向けの指針で示す予定だ。労働法制にも関わるため厚生労働省などと検討を進める。

 

(7)「犯歴の確認期間」

 拘禁刑は刑の終了から20年、罰金刑は10年などと定めた。対象は「特定性犯罪」として明示し、刑法犯のほか痴漢や盗撮など自治体の条例違反を含む。

 

(8)付帯決議

18日の参院内閣委では照会期間の延長や確認対象の特定性犯罪の拡大を求める付帯決議が可決された。

英国の犯罪歴の照会制度では、特定の犯罪は期間を無期限にしている。

 

(9)「職業選択の自由の侵害になるか」

DBS制度は子どもへの性犯罪を防止する一方で、性犯罪歴がある人の就労を事実上、制限する。憲法が保障する「職業選択の自由」を侵害しかねない面がある。

 

(10)「下着ドロボーやストーカーは対象外」

対象の犯罪では下着の窃盗やストーカー規制法違反などは含まれていない。

性的動機が明確な犯罪を対象にしているためだ。下着窃盗やストーカーは一般的に性的動機を裁判所が認定しておらず、線引きをどう判断するかの難しさがある。示談成立や不起訴になった場合も対象外になる。

 

(11)「性犯罪の5年以内の再犯率は13.9%」

加藤鮎子こども政策相は国会審議の中で「対象行為を誰が判断し、判断の正しさをどう担保するかなど様々な課題がある」と説明した。

こども家庭庁は付則に盛り込まれた規定に従い、施行後3年をめどに制度の見直しを検討する予定だ。

性犯罪の5年以内の再犯率は13.9%にも上り、こども家庭庁はDBS制度を議論する有識者会議の資料で「看過できる数値ではない」と強調した。学校の教職員や学習塾の講師らによる子どもへの性犯罪は相次いでいる。

子どもの安全確保と職業選択の自由のバランスをどうとるのか、課題が残る。