英中銀のQE損失はFRBの3倍、選挙前に政治議論の標的に-調査
記事(Philip Aldrick)
(1)要点
- 損失規模はGDPの4.7-4.9%相当、穴埋めは財務省が負担
- 保有債券の収入より多い利払い、割安な売却も損失要因
(2)イングランド銀行(英中央銀行)が量的緩和(QE)プログラムで米金融当局の3倍余りに相当する損失を出していることが新たな調査結果で示された。
10年以上に及んだ英中銀の刺激策に伴うコスト負担を巡り、再び政治議論が巻き起こる可能性がある。
(3)(資産運用会社コロンビア・スレッドニードルのダイナミック・リアルリターン責任者のクリストファー・マホン氏)
2009年から21年にかけて各国中央銀行が購入した国債ポートフォリオから生じる損失(対国内総生産(GDP)比)
英国中銀 4.7-4.9%。
米連邦準備制度 1.3-1.5%、
欧州中央銀行(ECB) 3.2-3.4%相当
となっている。
グラフ
QE Costs The BOE More Than Other Major Central Banks
Estimated losses on QE government programs
Source: Columbia Threadneedle
Note: Mark to market estiamtes of assest returns + cost of finance, 2009 to 2024
(4)英国でこれは約1300億ポンド(約26兆円)相当の損失となる。
09年のQE開始時の合意で、損失は税金によって穴埋めされることになっている。
(5)(7月4日の英総選挙まであと数週間)
右派政党「リフォームUK」は英中銀に介入して損失を阻止し、年間350億ポンドの節減を約束する。
(6)英中銀
金融危機や新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)から経済を守るために英中銀は09年に債券の購入を開始。
(◆不透明な経済状況では、民間金融機関が融資を返済してもらえないことを恐れて「貸し渋り」がおこる。すると、融資を受けて設備投資しやり仕入れしたりする国内取引を維持するために必要な通貨が不足する。それを防ぐために、中央銀行が民間金融機関が保有している各種の国債を購入し、その代金を政府・財務省に渡し政府支出を増やしてもらったり、金融機関に支払い、民間に融資されるようにするという政策がある。以上)
ピーク時には8950億ポンド相当を保有していた。
QEは財務省に1240億ポンドの利益をもたらしたが、その分は既に使い果たされており、英中銀の資産ポートフォリオ縮小に伴う損失埋め合わせで財務省は数十億ポンドを支払っている。
「損失が発生する理由」
(◆景気が回復したりインフレが始まったりしたら、中央銀行は民間に出回っている通貨を回収するために国債を発行し、民間金融機関から代金を受け取るが、新規国債の利払いが行われる。その国債発行の際に、買い手に魅力のある債券に見せるために、中央銀行が保有している他の債券類の利息よりも、高い利息を約束することがある 以上)
英中銀のバンクレート(政策金利)に基づく利払いが、資産購入ファシリティー(APF)を通じて保有する債券で得られるクーポン収入よりも高いためだ。
英中銀はまた、購入時よりも安い価格で債券を手放している。
The Treasury Has Already Lost Half the Profit It Made From QE
Source: Office for National Statistics
(7)右派政党「リフォームUK」のアプローチは極端と考えられているが、マホン氏は世論調査で支持率トップの野党・労働党が政権を握れば「財務省を再び活性化し」、QEに関して現状とは「異なるアプローチ」を取る可能性があると述べた。
(8)(マホン氏)
「明白な解決策は中央銀行の標準を採用することだ」と語る。
英中銀は主要中銀で唯一、積極的に債券を売却しており、損失を前もって確定させることになる。
米連邦公開市場委員会(FOMC)とECBは(債券を売却せずに)代わりに債券の満期保有を認めている。
FOMCは先月、米国債のランオフ(償還に伴う保有証券減少)のペース減速を決めた。
マホン氏は、英中銀が債券売却計画を見直す9月には積極的な売却を終了し、FOMCやECBと足並みをそろえると予想している。
原題:BOE Losses on QE Over Three Times Greater Than Fed, Analyst Says(抜粋)