変質する民主主義の警鐘(論説委員長) 菅野幹雄(24年6月17日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

 

(1)

「選挙の年」2024年は一段と波乱含みになった。

苦境のスナク英首相に続き、フランスのマクロン大統領が議会下院の解散と選挙の実施を告げた。

国連安全保障理事会の5つの常任理事国のうち、選挙のない中国を除く4カ国が国民の信を問う構図だ。

 

(2)

欧州連合(EU)の結束を担う立法機関、欧州議会選挙では移民政策や地球温暖化対策でEUに批判的な右派や極右政党が2割を超す議席を得て躍進した。

既存の中道勢力が過半数を守った一方、ドイツやフランスなど中軸国でも過激さの爪を隠した極右の伸長が政権政党を脅かす。

 

(3)

空前の選挙イヤーが折り返し点に来る。台湾総統選挙は混乱なく決着し、インドの総選挙ではモディ首相の剛腕の統治に有権者が与党議席の大幅減という警告を発した。

民主主義は辛うじて機能しているが、同時に変質が著しい。

11月の米大統領選は新旧対立の泥仕合が鮮明だ。司法や選挙制度への信頼が傷つき世界を混迷に導きかねない。そんな警鐘が鳴っている。

 

(4)

米欧、そして日本の現政権にはほぼ例外なく逆風が吹いている。

程度の差はあれど、物価上昇による一般市民の生活苦、少子高齢化による成長余地の頭打ち、そして民意の分極化という共通の試練に直面する。

そこに明確な解決策を提示できない点も一緒だ。

英仏で相次いだ選挙の前倒しはリーダーの袋小路を象徴する。岸田文雄首相の胸中も、そう違わないのではないか。

 

(5)フランス

「カミカゼ・マクロン」。独フリードリヒ・エーベルト財団パリ所長のウォルターズドルフ氏は国民議会(下院)選挙に出た大統領の賭けを皮肉る解説を記した。「ノルマンディー上陸作戦と対ファシズム戦勝の80周年を祝福したわずか数日後、マクロン氏は極右政権への道を開いたのかもしれない」

 

(6)ドイツ

ドイツでも25年秋に連邦議会選挙を控える。欧州議会選では極右の「ドイツのための選択肢(AfD)」が国内で第1党となり、ショルツ首相のドイツ社会民主党(SPD)は3位に沈んだ。「独仏とも投票率上昇で熱を帯びるなかで極右が躍進した。AfDは地方で相当に地盤を広げており、一過性の現象とはいえない」と欧州政治に詳しい遠藤乾・東大教授はみる。

 

(7)欧州

欧州で何が起きるのか。

(ニッセイ基礎研究所の伊藤さゆり常務理事)

安全保障への影響を懸念する。「EUにとって新しい権限であり、政治力が必要だ。そこで独仏が指導力を発揮できないのは非常に重い。ロシアや中国にとっては格好のチャンスだ。米大統領選挙がEUにとって厳しい結果になれば、ますます米欧分裂の状況になる」という。

 

(8)米国

その米国ではトランプ前大統領本人、そしてバイデン大統領の息子ハンター氏が「有罪」を突きつけられた。

不倫口止め料の不正処理裁判で有罪評決が下ったトランプ氏は「犬笛」を吹いた。

「実刑が出れば、民衆は受け入れがたいのではないか。どこかで限界点に達する」。21年1月6日、暴力が横行した連邦議会占拠事件の直前に「議事堂に行こう」とけしかけた光景が二重写しとなる。「トランプは民主主義を破壊する」。

バイデン氏もSNSで露骨な攻撃を再三繰り返す。

(渡辺靖・慶大教授)

「言葉や議論で相手を説き伏せるのは、かくも分極化が極まるなかで無意味なものに映り始めた。一方で議員への脅迫が急増する。言葉の限界で、実力行使しかない。そんなゆゆしき時代になりつつある」。世代が入れ替わっても米社会の分断の構図が解消しない可能性が高まったと危惧する。

 

(9)日本

混乱は決して人ごとではない。心配なのは日本だ。

(宇野重規・東大教授)

「民主主義は意外にも持ちこたえているが、新しい姿を見いだせていない。今年は非常に重要な過渡期だ」。

「米欧では分極化でダイナミックな政党の再編が起きているが、日本は逆にそれがない。政党政治や民主主義の下げ底が見えていればまだいいのだが、もっと落ちかねない」と日本の現状を憂える。

(経済同友会の新浪剛史代表幹事)

「日本の言論の自由のレベルが落ちている。何か言った者をたたくのが楽しい、新しいことをやろうと言うのはリスクとなる。『言わない方が得だ』という感じがある」

自民党の裏金問題に端を発した政治資金の議論は本質に迫らず、有権者の政治不信はとまらない。

投票率の低迷に拍車がかかれば民主主義の基盤が一段と揺らぎ、過激な言説や愉快犯のような選挙妨害がつけ込む余地を広げる。

 

(10)

(東大の遠藤教授)

「極右や極左に中間層以下の支持が回って政党政治が断片化している。中道右派の勢力がそれに近づこうと先鋭化すれば、先進国の民主主義はおかしくなりかねない」。東大の遠藤教授はポピュリズム(大衆迎合主義)の侵食は日本も無縁でないと語る。

明治維新を経た日本に言論や集会の自由を求め、板垣退助らが尽力した自由民権運動。今年は「民撰議院設立建白書」提出から150年の節目だ。日本新聞協会の会合で運動の発祥地、高知を訪ねた。

刺客の襲撃に遭いながらも自由を希求した板垣は、いまの日本に何と言うだろうか。

(歴史研究者の公文豪氏)

「筆を持ち、言葉でもって政治を正せ。もう一つは主義こそ政党にとって最も大事だ。この2つではないか」。

先人が築いた民主政の意義と貴重さを見つめ直すときだ。

 

<私見:

この論説で仰ってることは、一つの見解として間違っていないと思うが、日経のいままでの論調を見ると「なんだかなー」とおもってしまう。

たとえば、日経はアベノミクスの三本柱(金融緩和、財政出動、成長戦略)をさんざん批判してきたが、実際には失業率が低下し、大学の新卒の就職内定率が上がり「若者が自民党を支持する」という現象が起こった。これを日経は説明したことがないように思う。

 金融緩和や財政出動はポピュリズムだというスタンスだったが、しだいに円安でデフレ状況に緩和の傾向が出てきて、低金利批判、マネーサプライ批判、赤字財政批判がしにくくなると、財政の「ワイズ・スペンディング」つまり、バラマキをやめて経済の効率化、生産性向上に役立つ支出優先をいうようになった。ついでにコロナで生活苦に触れた。

 しかし、失業したら再就職が困難な時期だから、安倍政権がやったのはともかく「雇用保険の雇用調整助成金」をつかって解雇されそうな人を救済し失業を予防することだった。その結果、欧米が失業急増(社会不安)でも日本の失業はそれほどではなかった。個別的にいろいろな不具合がおこっていたが。これも無視。

 そして、ようやく物価が上がったが、輸入コストの上昇であり、国内の賃上げによる消費主要増加による物価上昇ではなかったから「デフレ脱却」とは言えなかった。政府日銀は「賃金上昇が軌道になればデフレ脱却」といってたが、日経は物価上昇だから「デフレ脱却宣言出せ」そして、財政健全化のために、財政支出引き締め、増税さえ言いだした。日経連会長たるものが「消費税増税」に言及しても、日経は批判しなかった。

 そして、防衛や外交などで一定の成果を挙げた岸田内閣だが、一転、国内経済では消費需要喚起をやっていない。定額減税も、ぐちゃぐちゃで、どうみても低年金非課税の老人世帯しか消費は増えそうもない。

 もちろん、子育て支援政策はいいけれども、財源を社会保険料の求めるというある意味、世界に例を見ない「ファシズム的」暴論を実行してるのに、日経は何の反応も見せない。

 その人が、「先人が築いた民主政の意義と貴重さを見つめ直すとき」というのは「大企業のエリートにとって都合良く物事が進んでいない」といってうようにしか見えない。

日経はその程度の新聞だと割り切ればそうなんですが。

高橋洋一先生がユーチューブで「日経よく読む、○○になる」と茶化す所以であるけど。

お若い会社員が読んでいるらしいからなー>