仏極右、下院選へ広く浸透 減税や移民抑制、公約で訴え 「普通の政党」アピール(24年6月17日 日本経済新聞電子版)
写真 RNを率いるルペン氏(左)とバルデラ党首(仏南部マルセイユ、3月)=ロイター
記事【パリ=北松円香】
(1)要点
フランスで6月30日から投票が始まる下院選に向け、極右政党の国民連合(RN)が幅広い層に浸透しつつある。
公約で減税など家計支援を掲げる一方、過激な発言は封印し「普通の政党」として内閣を担う姿勢を有権者に訴えかける。
(2)(調査会社クラスター17の調べ)
下院選で投票する政党は
RN 29.5%
左派連合 28.5%。
与党連合 18%。
(3)大統領は議会の信任を踏まえて首相を指名する。
極右が議会で主導権を握れば、マクロン大統領はRNの首相を指名せざるを得ない。内政は首相の担当のため、予算編成などにRNの意向が色濃く反映されることになる。
(4)
(RNが14日に明らかにした公約)
電気、ガス、燃料料金の付加価値税引き下げ(現在の20%から5.5%)。
医療施設の拡充や農業支援も掲げた。
(5)「RNが提案する大盤振る舞いや移民制限策は魅力的」
インフレに苦しみ、異なる文化や宗教を持つ移民の増加に反発する有権者にとって、RNが提案する大盤振る舞いや移民制限策は魅力的だ。
財政難を訴えて年金の受給開始年齢を64歳に上げたマクロン氏と比べると、なおさら家計に優しい政党に見える。
(6)「RN 年金改革については急がない」
フランスの財政は欧州連合(EU)の基準より大幅に悪化しており、RNが有権者に約束した家計支援を実行できるかは不透明だ。
バルデラ党首は見直しを主張してきた年金改革については急がない意向を示し始めた。
外国人や移民に対し厳しい姿勢で臨む方針は維持する方針だ。
(7)「外国人両親でフランスで生まれた子どもが18歳で仏国籍取得の現行制度を廃止」
「仏国民にとって大変な負担となっている大量の移民流入に、早急に歯止めをかける」。RNの前党首で今も同党を主導するマリーヌ・ルペン氏は14日、下院選後の政権構想についてこう語った。
外国人の両親のもとフランスで生まれた子どもが18歳になると仏国籍を得られる現行の仕組みを廃止する。
バルデラ氏は同日、下院選で勝利すれば、関連法案を議会に「数週間以内」に提出すると述べた。
(8)「RNは元々ロシアとの関係が深いのでウクライナ支援のペースは落ちると予測」
外交政策は曖昧だ。
外交は大統領の専権事項だが、自国優先主義の極右首相が支援予算を拒否すればウクライナへの援助のペースは落ちる恐れがある。
RNは元々ロシアとの関係が深いとされてきた。
(9)「人種差別的な言動も自制する戦略」
(調査会社イプソス)
「支持層」
労働者(54%)
管理職(20%)
高学歴層(大学教育3年以上、17%)
にも広がる。
EU離脱など極端な主張を撤回し、人種差別的な言動も自制する戦略が功を奏している。
(10)「極右への抵抗感 左派各党は共通公約と候補で合意」
ルペン氏の父でRNの前身、国民戦線(FN)の創立者であるジャンマリ・ルペン氏が大統領選の決選投票に初めて残ったのは2002年だった。当時はシラク大統領が82%の票を得てジャンマリ氏は18%にとどまり、圧倒的な差で敗退した。
およそ20年後の今、RNは権力の座にまたとなく近いところまで来た。
極右への抵抗感が強い有権者も依然多く、RNが勝利できるかは不透明な部分もある。
左派の各党は共通の公約と候補で合意し、極右の台頭阻止を掲げる。
15日にはフランス各地で大規模な極右反対デモが開かれた。
<私見:
有権者は選挙の公約を見て投票するのは不思議ではない。
日本でもかつて共産党の政策が有権者の支持を得て議席を伸ばした。これを「有権者は騙された」という人はいない。しかし、選挙を繰り返し有権者の選択によって今は停滞している。
いま、フランスで国民連合の政策が支持されているのをみて、日本のマスコミは「フランスの有権者は極右国民連合のソフト路線に騙されている」という論調である。
根っこにはマスコミが「リベラル」とか「欧州統合」という政治理念を支持するという大前提にたっているように見せていることがある。
しかし、ヨーロッパでは、それがブリュッセルのEU官僚による各国の事情を無視した規制により行われていることに、各国で国民の反発を招いている。
いわばトランプが米国で非難している「エリートの夢」で国民に迷惑をかけているという主張に過半数の国民が共感しているのと同類になる。
政治家が「エリートの夢」が国民に幸福をもたらすことの説明を省略している(又は説明できない)から「階級」とか「分断」といって煽られている>