AIロボの進化のカギ「身体性」状況認知や行動の結果を(快、不快)データとして蓄積し、推論に

<サイエンスNextViews> AI進化のカギ「身体性」 ロボと融合で加速期待 編集委員 青木慎一(24年6月16日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)「AIが人間の知性を超える日は近い、という見方」

人工知能(AI)が人間と同じように考えることは可能か。

「ChatGPT(チャットGPT)」をはじめ技術の急速な進化で、人間の知性を超える日は近いとの見方もある。現在の生成AIは自然な会話はできても、人間の質問に対して続く確率が高い単語を並べているにすぎない。自律的に物事を考えて判断するには、いくつかブレークスルーが必要だろう。

 

(2)その一つになりそうなのが、生成AIとロボットを融合させる動きだ。

ヒト型ロボットを開発する米フィギュアAIは米オープンAIとロボット向けの次世代技術の開発で協力する。

 

(3)「ヒト型ロボットが人間の指示がなくてもミスを改善する能力を限定的だが身につけた」

フィギュアAIはコーヒーマシンの使い方について10時間の動画を学習し、試行錯誤を繰り返しながら動作を改善する技術を開発した。人間の動きを学習し、失敗を繰り返すことでコーヒーのいれ方を習得した。

人間の指示がなくてもミスを改善する能力を限定的だが身につけたのだ。

 

(4)「ロボットの頭脳部分となるのが生成AI」

同社にはオープンAIのほか、米マイクロソフトや米エヌビディア、米アマゾン・ドット・コム創業者のジェフ・ベゾス氏らが出資する。

同様の研究は、米グーグルや電気自動車大手の米テスラ、ロボット・スタートアップの米ボストン・ダイナミクスなども進めている。ロボットの頭脳部分となるのが生成AIだ。

 

(5)「AIには「経験して因果関係を学習する」能力がない」

これらは「身体性」という考え方につながる。AIの進化にとって、ロボットという身体を持つことは重要な意味を持つ。

人間は身体の動きや五感を通じ、見たものや触ったものなどを感じて知る。子どもは身の回りのものを見て、触って学習し、痛い目に遭ったら経験として学び「ああすれば、こうなる」と因果律を身につける。AIにも同様の経験をさせるには、ロボットという身体とセンサーが必要なのだ。

 

(6)「今のAIは頭でっかちで、経験に基づく知識も身についてはいない」

生成AIはインターネット上の大量の文書や画像、音声を学習している。知識の量は膨大で、人間が一生かけても学べないほどだ。しかし、一つ一つのデータは経験や感覚に対応しているわけではない。例えば、方向感覚や空間認知といった人間が備える能力は驚くほど弱い。経験に基づく知識も身についてはいない。

 

(7)「目と耳と触覚を搭載し、状況や行動の結果(快、不快)をデータとして蓄積」

生成AIに目と耳と触覚を搭載することで、データと感覚が対応するようになる。自分で手や足を動かし遭遇した状況や行動の結果をデータとして蓄積すれば、過去の履歴と周囲の状況から推論して何をすればよいか判断できる可能性がある。

知的好奇心から情報を取りに行くといった行為を実現し、自己認識の感覚を持つようになるかもしれない。期待は大きい。

 

(8)「現在の生成AIが触覚の情報を処理するのに適しているのか不明」

現在の生成AIの基盤技術である大規模言語モデルが、触覚の情報を処理するのに適しているのかは不明だ。異なる形式の情報を一括で処理できる新たな技術などがおそらく必要で、超えるべき壁は高い。

生物は身体がまずあり、繁殖に必要な進化を続ける過程で知能を身につけた。知能が先に大きく発達したAIが身体性を獲得することで、どのように進化するのか。この10年が勝負どころだろう。

 

■創発(そうはつ)

【広辞苑】進化論・システム論など複雑系の理論の用語。生物進化の過程やシステムの発展過程において、先行する条件からは予測や説明できない特性や能力が生み出されること。

【明鏡国語辞典】システムを形成している個々の要素には備わっていなかった性質が、システムとして機能することによって発現すること。