あすへの話題 新玉葱 料理研究家 土井善晴(24年6月15日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)新玉葱(たまねぎ)の季節だ。

関西に生まれた私には、玉葱といえば泉州か淡路だ。柔らかくて煮えやすく扱いがよい。明治初期玉葱が日本に入ってきたとき、当時の和食にはなじまずなかなか受け入れられなかったが、牛肉との相性のよさから、すき焼きと言えば牛肉の関西に根づく。

 

(2)このごろの玉葱は刺激がなく保健効果が弱まり、涙の情緒も失った。

生でも辛味がなくて、水晒(さら)しなしでおいしく食べられる。

修行時代のご主人に教わった玉葱料理がある。

「新玉葱のけったん」(油でこんこんと炒めることが「ける」/炒めたものの意)。

玉葱の芯をくるりと抜いて、横半わりにして、水流を利用して、内側に押し出し、リングを外して椀(わん)型にする。

 

(3)さて、中華鍋に油を熱して、水滴のついた玉葱を炒め、少ししんなりすれば、塩をして、牛の切り落とし肉(牛コマ)を玉葱の上に広げてのせ、お肉の分の塩をして、蓋をかぶせ、ごく弱火で、じんわり、牛肉に(半ば)火が通るまで待つ。

肉に火を通している間に、他の事ができるので、忙しい厨房の賄いにはかなり役にたつ。鍋の中では当たりの柔らかい玉葱が放つ蒸気は肉にストレスを与えず、肉はその旨(うま)みを下の玉葱に落とす。牛肉に完全に火が通る前に、蓋を取り、強火にして、2~3度鍋を振り、なじませる。シンプルだが……食材の取り合わせ、包丁、火入れなど……よく考えられたお料理だ。

 

(4)新玉葱、新じゃが芋、牛肉、糸蒟蒻(こんにゃく)と青葱で、同様に蒸し焼きにして甘辛の肉じゃがを作る。夏の間、じゃが芋と玉葱は、水分が多く火の通りよく、扱いがよい。