被災で通信途絶、「空」が活路 民間の衛星網・ドローンで代替 国・自治体、機器配備急ぐ(24年6月14日 日本経済新聞電子版)

 

記事(野村健太)

 

 

写真 スマートフォンで被災状況を撮影する国土交通省の職員ら(1月、石川県穴水町)=同省提供

 

(1)要点「民間衛星など「空」からの通信確保必要 画像データの大容量」

大規模災害で携帯電話の基地局が停電したり故障したりする例が相次ぐ中、民間衛星など「空」からの通信を代替策として確保する動きが広がっている。

避難や復旧活動には被災地の迅速な現状把握が欠かせない。近年は画像などやりとりするデータの容量が大きく、国や自治体は関連機器の配備を急ぐ。

 

(2)「米スペースXが手掛ける通信衛星網「スターリンク」を導入 地方整備局など9カ所」

被災地に急行して支援に当たる国土交通省の緊急災害対策派遣隊(テックフォース)は、今年度中に米スペースXが手掛ける通信衛星網「スターリンク」を導入する。

全国の地方整備局など9カ所に衛星通信ができるアンテナやケーブルの付いた専用キットを1台ずつ配備し、効果を検証する。

 

 

 

(3)「避難や復旧のために被害状況の速やかな把握が重要」

テックフォースは土砂災害や交通インフラの破損範囲を測量するなどして自治体を支援する。

ドローンやスマートフォンで撮影した写真で現場の状況を共有したり、写真データから破損面積を自動計測するなど活動のデジタル化を進めている。

 

(4)「能登地震で通信途絶地は役所設置のスターリンクで通信確保し画像データも授受」

迅速な情報収集が可能になったものの、通信障害が発生する被災地では活動が停滞する問題があった。通信手段として、衛星電話は備えているが、画像などのデータ共有は難しい。能登半島地震でも通信途絶地域ではKDDIが役所に設置したスターリンクなどで通信を確保しながら活動した。

「スターリンク」

通常よりも低い軌道を飛ぶ衛星網で、他の衛星サービスに比べて高速・低遅延の通信が可能。同省の担当者は「現場写真などのアップロードのため電波が届く場所まで移動する必要がなくなる」と期待する。能登半島地震では自衛隊や災害派遣医療チーム(DMAT)にも利用された。

 

(5)「東京都は24年度中に全市区町村に配備」

東京都は24年度中に専用キット77台を全市区町村に配備し、災害時などに通信が途絶した場合の連絡手段として活用する。

神奈川県でも災害時の通信確保のため、27台を24年度に導入する予定だ。

 

(6)「停電なら発電機必要 利用料も発生」

課題もある。電源が必要なため、停電した地域で使うには発電機などを用意する必要がある。サービスを提供するKDDIによると専用キットの導入費用は1台あたり約44万円かかる。持ち運びが可能なタイプでは月額使用料は7万~76万円に上る。

導入を検討する国交省担当者は「費用に見合う効果があるか、有効性を確かめたい」と話す。

 

(7)「無線中継器を積んだドローンを飛ばし周囲1km超の地域を通信可能 夜間は使用禁止」

能登半島地震では通信途絶の解消にドローンも活用された。

無線中継器を積んだドローンを地上数十メートルの高さまで飛ばすことで、周囲1キロメートル超の地域を通信可能にした。

車に衛星通信設備を設置した「移動基地局」のカバー範囲は数百メートルと限定的だった。

だが、航空法ではドローンの夜間飛行は原則禁止だ。能登半島地震でも夜間の使用は断念するなど、安定運用には課題もある。

 

(8)「複数の通信手段の確保が必要に」

東北大の岩月勝美特任教授(情報通信)は、「人命救助など災害対応のデジタル化が進み、災害時の通信確保の重要性は高まり続けている」と指摘。

その上で「日本では地震以外にも多様な災害が発生しうる。特定の手段に頼らず、複数の通信手段を確保しておくことが重要だ」と強調した。

(野村健太)