日本、賃金格差の是正急務 男女平等118位でG7内最下位 EUは企業に改善義務(24年6月13日 日本経済新聞電子版)
記事の概要
(1)世界経済フォーラム(WEF)が、男女平等の実現度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」を発表
(2)「WEFは「経済・教育・健康・政治」の4分野を毎年、分析」
(3)「不合理な賃金格差の解消して女性の労働意欲を高め雇用者を増やす」
(4)「EU 正当な理由がない男女格差が5%なら是正を指示」
(5)「日本でも賃金体系の透明性を高める取り組み」
(6)「勤続年数や管理職比率の違い、意識などが格差を生む」
記事(編集委員 中村奈都子、沢田範子)
(1)世界経済フォーラム(WEF)は12日、男女平等の実現度合いを示す「ジェンダー・ギャップ指数」を発表した。
日本は調査対象の146カ国中118位だった。過去最低だった前年の125位より改善したが、政治と経済はなお低迷する。浮上には非正規などの待遇を改善し、賃金格差を是正することが重要だ。
表 ジェンダー・ギャップ指数の経済分野における主要国の順位
22位米国、33位カナダ、39位中国、48位フランス、58位英国、82位ドイツ、111位イタリア、112位韓国
120位日本
◆報告書のはじめに次のような注意がある。「世界経済フォーラムは執行部、幹部、職員などは、…この報告書の正確性や何か特定の目的から見た適切さについて、全く代表ではなく表現も含意も持っていない」
( the World Economic Forum, its agents, officers and employees: (ii) make no representations, express or implied, as to the accuracy of the Data contained in this Report or its suitability for any particular purpose; )
◆2024年経済分野の1位から順に
Iceland Finland Norway New Zealand Sweden Nicaragua Germany Namibia Ireland Spain
(report 表1.1)
(2)「WEFは「経済・教育・健康・政治」の4分野を毎年、分析」
日本は政治の順位が138位から113位に上昇した。女性閣僚の比率が4分の1と前回調査時点の8%より増えたことが評価された。
それでも主要7カ国(G7)では最下位で、中国(106位)や韓国(94位)より劣る。
衆院議員の女性比率は10%にとどまる。
経済分野は120位と前年(123位)とほぼ横ばいだった。
指標となる女性管理職比率は17.1%と低い。
同一労働での賃金格差や推定所得の差も大きかった。
(3)「不合理な賃金格差の解消して女性の労働意欲を高め雇用者を増やす」
女性の労働意欲を高め雇用者を増やすためにも不合理な賃金格差の解消は必要だ。
経済協力開発機構(OECD)の2022年のデータによれば、日本は男性の賃金を100とすると、女性は78.7しか稼いでいない。この格差はOECD平均の2倍近い。
32位から17位に上がったポルトガルは格差を5ポイント以上縮め、経済の指数を伸ばした。全ての民間企業に格差の開示を義務付ける。問題があれば検査機関が説明を求める。
(野村総合研究所未来創発センター雇用・生活研究室の武田佳奈室長)
「年功や雇用形態によらず、成果による評価で処遇する同一労働同一賃金が浸透する国では格差が広がりにくい」とみる。
(4)「EU 正当な理由がない男女格差が5%なら是正を指示」
上位の欧州諸国でも賃金の不平等は克服できていない。
格差は女性の経済的自立を妨げ、老後の貧困リスクにもつながるとみなし、対策を急ぐ。
(欧州連合(EU))
23年、域内の企業に同一労働同一賃金の強化を義務付ける指令を出した。
従業員100人以上の企業で正当な理由がない男女格差が5%以上ある場合は是正を求める。
26年までの国内法の整備、監視・支援の機関の設置も盛り込んだ。
スイスは賃金格差の診断ツールを無償で提供する。
賃金を職務経験、職位、性別などに分解して分析する。
OECD諸国では格差の報告を怠った場合などの罰金が少なくとも13カ国で導入されている。オーストラリアは違反の事例を議会で示し、特定の公共入札から排除する。
(5)「日本でも賃金体系の透明性を高める取り組み」
日本でも賃金体系の透明性を高める取り組みが広がっている。
1)(メルカリ)
23年、同じ職種、等級でも男女で7%の差があったと公表した。「説明できない格差」と結論づけ、23年、対象社員にはベースアップを実施し2.5%まで縮小させた。
中途採用が9割以上を占め、入社時の報酬は前職の給与を参考に決めていた。
女性の方が賃金が低かったり、希望年収を低めに設定したりする傾向があり、入社時に9%の差があったという。採用時に前職の給与を参照しないように変えた。
2)(資生堂の国内グループ)
22年の賃金差は管理職で男性が100とした場合、女性は96だった。21年から横ばいだった。管理職以外は88で3ポイント上がった。21年にジョブ型の人事制度を導入し、能力に応じてキャリアアップする体制にしたことが格差縮小につながった。
3)(政府)
22年7月、従業員が301人以上いる企業に開示を義務付けた。101人以上の企業への対象拡大も検討する。
4)(骨太の方針に対応策を盛り込む)
岸田文雄政権が進める構造的な賃上げの波及には賃金格差の縮小が欠かせない。政府は経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)に対応策を盛り込む。小売りなど非正規雇用の女性が多い業界には改善に向けた行動計画の策定を求める。
(6)「勤続年数や管理職比率の違い、意識などが格差を生む」
(政府のプロジェクトチーム(PT)の座長を務める矢田稚子首相補佐官)
「勤続年数や管理職比率の違い、そして管理職や女性本人のアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)などが格差を生んでいる」と説明する。
(明治大学の原ひろみ教授)
「日本は初回の開示の多くが23年で、データはまだ整っていない。格差が縮小したかを検証するべきだ」と指摘する。
(編集委員 中村奈都子、沢田範子)