自衛隊訓練場計画断念 「住民運動の勝利」美談で伝える沖縄2紙(八重山日報 仲新城誠)(24年6月9日 newsYahoo! 産経新聞電子版ニュース)

沖縄が危ない!

 

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写真 陸自訓練場の予定地となっていたゴルフ場跡地=沖縄県うるま市

 

(1)「自民党沖縄県連までもが反旗」

防衛省が沖縄県うるま市のゴルフ場跡地で計画していた自衛隊訓練場の整備計画が4月、断念に追い込まれた。

地域住民が「生活に影響が出る」と反発し、沖縄メディアも連日、計画を激しく非難した。政府与党側の自民党沖縄県連までもが反旗を翻し、木原稔防衛相に反対を直訴する事態に発展したのだ。

 

(2)沖縄では訓練場断念が、「住民運動の勝利」「民主主義が正しく機能」(沖縄タイムス)、「保革超え強行阻止」「住民犠牲に『ノー』」(琉球新報)と、美談扱いで大々的に報じられている。

基地反対派や地域住民はお祭り騒ぎだ。

反対運動の中心になった住民たちは後世の参考にしてほしいと、本を発刊するという。だが、そんなに喜んでいる場合だろうか。

丁寧な根回しを怠った防衛省の失態は隠しようもない。とはいえ、沖縄を他国の攻撃から守り、災害時には復興支援に尽力する自衛隊施設の存在は、地域にとって「負担」なのか。

今回の騒動に関し、「平和を願う住民が軍事基地建設を阻止した」という論調のみ横行する沖縄の現状に、虚しさを禁じ得ない。

訓練場整備は、中国の脅威をにらみ、陸上自衛隊第15旅団(那覇市)の師団格上げによる人員増加に伴い計画されていた。

 

◆玉城知事「新たな自衛隊基地は造らせない」

 

(3)政府は今年度予算案に用地取得費を計上したが、まず地域の自治会が抵抗ののろしを上げ、玉城デニー知事、うるま市長ら地元政治家も続々と計画阻止に動いた。

自民党県連も6月に県議選を控えて世論を意識せざるを得ず、防衛省は退路をふさがれた。

余勢を駆ってか、玉城知事は計画断念直後の市民集会で、「沖縄県内で米軍基地の整理縮小、撤去の上にのしかかるような、新たな自衛隊基地は造らせない」と発言。うるま市以外の場所であっても、訓練場建設は認めない方針を示唆した。

 

(4)訓練場が地域の住民生活に重大な影響を及ぼすのなら、計画の見直しは避けられない。

だが、一連の経緯を見ると、訓練場は自衛隊の施設というだけで問答無用に「迷惑施設」扱いされ、反対運動はそのまま反戦運動の様相を呈した。この間、沖縄を取り巻く厳しい国際情勢は、ほとんど議論された形跡がない。

 

(5)訓練場の整備計画が遅れることで沖縄の防衛に支障が出る可能性があるなら、今回の計画断念は、誰にとっての「勝利」でもない。あえて勝者を探すならそれは地域住民でも県民でもなく、沖縄をうかがう中国だろう。

玉城知事の発言に象徴されるように、今後、沖縄では防衛関連の施設整備が一層困難になるかもしれない。すべての当事者は、この結果を厳粛に受け止め、どうすれば抑止力強化と住民生活の両立を図れるか、真剣に考えなくてはならない。

もう一つ、同胞である県民に呼び掛けたい。

米軍基地と違い、自衛隊施設は日本の公共施設だ。

事件や事故で住民に被害が及べば、日本の法律で厳正に処理される。住民生活に配慮した運用ができれば、むしろ「地域の財産」という考え方も可能なのだ。

 

仲新城誠(なかしんじょう・まこと)

1973年、沖縄県石垣市生まれ。琉球大学卒業後、99年に地方紙「八重山日報社」に入社。2010年、同社編集長に就任。現在、同社編集主幹。同県のメディアが、イデオロギー色の強い報道を続けるなか、現場主義の中立的な取材・報道を心がけている。著書に『「軍神」を忘れた沖縄』(閣文社)、『翁長知事と沖縄メディア 「反日・親中」タッグの暴走』(産経新聞出版)、『偏向の沖縄で「第三の新聞」を発行する』(同)など。