賃金、若手重視の配分強まる 初任給上げ8割超で最多(24年6月9日 日本経済新聞電子版)

 

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写真 初任給を引き上げる企業が相次いでいる(2024年4月の伊藤忠商事の入社式)

 

(1)要点

企業が賃金を決める上で、若手を重視する傾向が一段と強まっている。

(日本経済新聞がまとめた2024年の賃金動向調査)

 春季労使交渉で初任給の引き上げを決めた企業は8割を超えた。同様の質問を設けた19年以降最高となった。人材の獲得競争が激化するなか、企業は若手に魅力的な待遇を整える傾向を強めている。

 

(2)「日経による調査 初任給引き上げ、若手の昇給」

1)調査では賃上げ率の聞き取りに加え、雇用制度や労働環境の整備全般で力を入れていることなどについて尋ねている。

(24年の春季交渉などで従業員の待遇改善について決定した内容)

 「初任給の引き上げ」が80.9%(複数回答)で前年調査を2.1ポイント上回り最多となった。初めて8割を超えた。

 

2)初任給引き上げの動きは新型コロナウイルス禍からの回復で人手不足が顕著になった23年ごろから目立ってきた。

直近でも伊藤忠商事が4月から5万円引き上げ30万5000円とし、トヨタ自動車も4月入社の学部卒で前年比11%(2万6000円)増の25万4000円とした。

業種を超えて初任給を引き上げる動きが広がる。

 

3)若手への分配を高める傾向も強まっている。待遇改善で決定した内容で2番目に多かったのが「20~30代のベースアップ(ベア)・定期昇給引き上げ」で55.7%(前年調査比4.9ポイント増)だった。

 

 

(3)「若手の昇給優先の問題」

(人事関連サービスのクレイア・コンサルティング(東京・港)の桐ケ谷優執行役員)

 1)「新入社員と先輩の給与の逆転を避けるために「賃金テーブルの改訂を迫られる」

 

 2)上げや若手への分配の優先度が高まるなか、柔軟な働き方や労働環境の整備に対する企業の意欲は相対的に下がっている可能性もある。

 待遇改善で決定した内容

  「労働時間削減・有休取得推進」は16.2%と2年前に比べて約11ポイント下がった。

  24年調査から新設した選択肢の「長時間労働の是正」も10.4%にとどまり

  副業や週休3日制の整備を選んだ回答はそれぞれ3%に満たなかった。

 

 3)労使交渉で特に考慮すべき事業環境

  24年調査では「消費者物価の上昇」が最多の68.6%(前年調査比2.2ポイント減)だった。

  前年調査に比べ大幅増となったのが「人手不足」で10.8ポイント増の42.1%だった。

  24年調査から回答の選択肢に追加した「取引先への価格転嫁」も16.5%と高かった。

 

 

(4)「日銀の金融政策変更」は2.1%にとどまった。

 日銀は3月の金融政策決定会合でマイナス金利を解除し、17年ぶりに利上げに踏み切った。

 (帝国データバンクの3月の調査)

 有利子負債のある約9万社は借入金利が 0.5%上昇すると経常利益が平均 4.6%減る。

 ただ、今のところ、金融政策の変更は企業が賃金水準を決める上でマイナス要因とはなっていないようだ。

24年賃金動向調査は4月4~25日に実施した。

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◆投稿

永浜利広(第一生命経済研究所 首席エコノミスト)

分析・考察「30代後半~50代前半は管理職になって非組合員で所定内給与が減らされた

 事実、厚生労働省の賃金構造基本調査によれば、2023年の一般労働者の所定内給与は30年ぶりの賃上げもあって前年比+2.1%と19年ぶりの水準まで上昇しています。

 年齢階級・学歴別にみると、けん引役は20代の若年層と60代以降のシニアであり、むしろ30代後半~50代前半のいわゆるロスジェネ世代では30年ぶりの賃上げにもかかわらずほとんど所定内給与が増えておらず、大企業に至っては大きく下がっています。

 背景には、組合のある企業でも管理職などの役職者となった非組合員のミドル層の賃金を抑制して若手社員に分配していることがあると考えられます。

2024年6月9日 8:08 (2024年6月9日 8:09更新)

■年収(概算)=きまって支給する現金給与額×12+年間賞与その他特別給与額

  「きまって支給する現金給与額」=所定内給与額に時間外勤務手当などを加えたもので、月々支給される給与の総額のことです。