民主の牙城シリコンバレー、トランプ氏支持じわり 投資家ら、IT規制に反発(24年6月8日 日本経済新聞電子版)

 

写真 リベラル派の牙城とされてきた米サンフランシスコでトランプ氏の支持者が声を上げた(6日)

 

記事【シリコンバレー=山田遼太郎】

 

(1)要点

民主党に近い「リベラル派」の牙城とされる米西部カリフォルニア州で、投資家や起業家の一部がトランプ前大統領への支持を唱え始めた。IT(情報技術)企業への規制を強めたバイデン米政権への反発を映している。

大統領選に向け、IT集積地シリコンバレーから一定の資金がトランプ氏に回る可能性がある。

 

(2)「トランプを次の大統領に」。

6日夕、サンフランシスコの高級住宅街は、トランプ氏をひと目見ようと詰めかけた数百人の支持者らの熱気に包まれていた。住宅の1軒で資金集めイベントが開かれた。

ディナーの会費は1人最低5万ドル(約780万円)。チケットは完売し、米CNBCなどによるとトランプ氏は一晩で1200万ドルの資金を集めた。

ベンチャーキャピタル(VC)の投資家、デービッド・サックス氏とチャマス・パリハピティヤ氏が主催した。

サックス氏は米エアビーアンドビーなどへの投資で著名だ。

パリハピティヤ氏は「SPAC(特別買収目的会社)の王」として知られる。

トランプ氏は8日までカリフォルニア州で資金集めイベントを開く。8日のイベントは著名起業家のパルマー・ラッキー氏が主催する。

 

(3)「シリコンバレーは二律背反」

IT長者が多いシリコンバレーには元来「小さな政府」を志向する文化があり、ビジネス面では共和党と共鳴しやすい。

一方で、移民など人材の多様性を成長の原動力にしてきたこともあり、社会問題に対する姿勢ではリベラル派が多い。移民に対し強硬な発言が目立つトランプ氏への批判の声は根強い。

 

(4)16年や20年の大統領選では、トランプ氏を公に支持したシリコンバレーの著名人は投資家のピーター・ティール氏や、オラクル会長のラリー・エリソン氏らに限られていた。そのシリコンバレーでトランプ氏に傾くのはサックス氏らだけではない。

イーロン・マスク

米電気自動車(EV)大手テスラなどを率いるイーロン・マスク氏もそうだ。トランプ氏との接近が報じられる一方、バイデン氏への批判を強める。

名門VC、セコイア・キャピタルの一部の投資家もトランプ氏を支持すると表明した。

 

(5)「米連邦取引委員会委員長と米証券取引委員会委員長に批判」

シリコンバレーに広がるのは、バイデン政権によるテック規制強化への反感だ。

政権のもとで規制を厳しくしてきた米連邦取引委員会(FTC)のカーン委員長と米証券取引委員会(SEC)のゲンスラー委員長が投資家のやり玉にあがる。

カーン氏がテック大手のM&A(合併・買収)規制を厳しくしたことで、VCはスタートアップの株式売却益を稼ぎにくくなった。

ゲンスラー氏は暗号資産(仮想通貨)の取引所を証券法違反で訴えるなど締め付けを強めた。

 

(6)トランプ氏は自ら仮想通貨での献金受け付けを始めるなど、同分野の推進姿勢をアピールしている。

カリフォルニア州が民主の牙城であることに変わりはない。

バイデン氏は20年大統領選で29ポイントの大差をつけてトランプ氏に勝利した。今回も同州での勝利は確実視されている。