学校休んで外で学ぼう 広がる「ラーケーション」 農業体験や歴史探究 愛知・山口など、欠席扱いせず(24年6月8日 日本経済新聞電子版)

 

記事(田崎陸)

 

写真 愛知県岡崎市のアウトドア施設は平日に子どもの宿泊代金を半額にするプランをつくった

 

 児童・生徒が欠席扱いとならずに授業を休める制度が広がっている。全国で初めて導入した愛知県に続き、茨城県や栃木県日光市などが4月に導入した。山口県も6月に始めた。親と一緒に水族館や博物館を訪れるなど探究的な活動にあててもらう。観光業界は需要の分散に期待する。

 

制度は学習(ラーニング)と休暇(バケーション)を合わせた「ラーケーション」と呼ばれる。山口県は「家族でやま学の日」を創設し、年3日ほど校外での自習活動にあててもらう。保護者が原則1週間前までに申請書を学校に提出する。欠席扱いにはしない。

 

やま学は「やまぐち型地域体験・探究学習」の略称だ。地域の歴史や文化を学んだり、農業体験をしたりすることなどを想定している。県立学校は原則6月以降、市町立学校は準備が整った市町から順次始める。

茨城県は4月から県立高校や制度に同意した30以上の市町村の小中学校で始めた。年5日間まで欠席扱いにせず、受けられなかった授業は自習で補う。熊本県も4月に同様の制度を開始した。

 

◆需要分散に期待

 

土日に働く人が多い観光地も関心を寄せる。国内有数の温泉地である大分県別府市は2023年9月に導入し、世界遺産「日光東照宮」で知られる日光市は24年4月に始めた。

 

 

 

沖縄県座間味村は村立の小中学生に年3日まで付与する。家族で旅行に使うのも歓迎する。背景には観光地ならではの事情がある。村内の就業者の9割以上が観光業や飲食業などで働く。保護者の繁忙期と学校の休みは必然的に重なり、家族で出かけられない家庭が多いという。

 

全国でみても土日に仕事をする人は一定数いる。21年の総務省の社会生活基本調査によると、約3割は日曜日に働いている。

 

ラーケーションの導入拡大を歓迎するのが観光業界だ。ホテルやレジャー施設は土日や長期休暇に需要が集中する。日本旅行業協会の高橋広行会長(JTB会長)は「平日への旅行の平準化が進み、旅行の総需要の拡大が大いに期待できる」と話す。

愛知県では旅行会社やホテルがラーケーション向けプランをつくる動きも広がった。

アウトドア施設を運営するウッドデザインパーク(名古屋市)は平日限定で子どもの宿泊代金を半額にするプランをつくった。愛知県岡崎市の施設では22年度に平日の子連れ利用はほとんどなかったが、23年9~11月は86件の予約があった。

 

◆教員の負担課題

 

ラーケーションを浸透させていくには、保護者が有給休暇を取得しやすい環境整備も必要になる。

愛知県が1月に、主に小中学生の保護者に尋ねたところ、35%が取得したか取得予定だった。県担当者は「年度途中の開始で短かったが手応えはあった」と話す。一方で24%は「取得したいが、仕事の都合で難しい」と答えており、職場の理解を深めていくことが欠かせない。

 

 

教職員の負担も課題になる。給食の停止や出欠席の把握が煩雑になる。愛知県が小中学校の教職員らを対象に調査したところ、自分の子どものラーケーションのために、有給休暇を取得したか取得予定だったのは9%にとどまった。

愛知教育大学の風岡治教授(教育経営学)は「校務支援員の配置やデジタル化で負担を減らし、教員の働き方改革にもつなげるべきだ」と指摘した。

(田崎陸)