【コラム】ECBが利下げで先行、主導権はなおFOMC-エラリアン(24年6月7日 ブルームバーグ日本語電子版無料版)

 

記事の概要

(1)要点

  •     為替市場の反応に対する懸念がECBの追加利下げを抑制も
  •     G7諸国の利下げ規模・ペースはFOMCの考え方の転換が左右

(2)「米国の利下げが遅れる場合には、為替に影響」

(3)「米はインフレ目標を2%よりも高いインフレ率を設定し、利下げの方向に向くべき」

(4)「カナダ中銀は英国や米国に先駆けて2019年以来となる利下げに踏み切った」

(5)「G7の多くの経済指標が経済の軟調を示している」

(6)「米はサービス部門以外の指標は物価下落と国債利回り下落(国債需要増加、国債価格上昇)圧力」

(7)「景気後退確率35%、ソフトランディングシナリオ50%、景気拡大加熱ではないシナリオが15%」

(8)「FOMCが7月に利下げサイクルを開始することを期待」

(9)「G7(日銀以外)の利下げは米金融政策当局にかかっている」

(10)「米金融政策当局が行うべき2つの考え方の転換」

  1)「将来起こり得る展開も予測するより戦略的なアプローチへの転換」

  2)「インフレ目標を3%に近づけること」

  3)政策当局者が、世界経済・金融での相互依存のパターンと国内経済の両方で見られる構造的変化の影響を理解する必要がある。

(11)「米金融政策当局の転換が遅れればカナダやECBは為替市場の混乱を懸念し、必要な利下げができなくなる」

 

記事(コラムニスト:Mohamed El-Erian)

 

(1)要点

  •     為替市場の反応に対する懸念がECBの追加利下げを抑制も
  •     G7諸国の利下げ規模・ペースはFOMCの考え方の転換が左右

 

(2)「米国の利下げが遅れる場合には、為替に影響」

欧州中央銀行(ECB)は、カナダ銀行(中央銀行)に続き、利下げサイクルに入った。今後数カ月間で英米の金融政策当局もこれに続くだろう。

利下げを後押ししたのは欧州とカナダの景気動向だが、この先の追加利下げについては両中銀、特にECBは早々に抑え込まれる可能性がある。

米連邦公開市場委員会(FOMC)が利下げを遅らせた場合の為替市場の反応に対する懸念が背景だ。

 

リンク ECB、金融緩和を米英に先駆け開始-追加利下げ見通しは示さず 

  

(3)「米はインフレ目標を2%よりも高いインフレ率を設定し、利下げの方向に向くべき」

この懸念はFOMCの後手後手の政策アプローチや2%のインフレ目標によって増大している。

グローバル化への支援が分断し、自由化や規制緩和、財政規律に対するワシントンのコンセンサスが加速度的に逆戻りしている世界において目標値の2%は低過ぎる。

 

(4)「カナダ中銀は英国や米国に先駆けて2019年以来となる利下げに踏み切った」

カナダ中銀のマックレム総裁は現在の見通しを基に「追加利下げを想定するのは理にかなう」と述べた。

今後の政策ガイダンスに対するECBのガードはより堅いが、イングランド銀行(英中央銀行)とFOMCに先駆けて2019年以来となる利下げに踏み切ったことは注目すべきだ。

 

リンク カナダ中銀、政策金利を4.75%に下げ-追加利下げも示唆

  

(5)「G7の多くの経済指標が経済の軟調を示している」

全てとは言わないが最近の主要7カ国(G7)の経済指標の大半は、多くの予想以上に経済活動が軟調であることを示している。

米国で顕著

 

(6)「米はサービス部門以外の指標は物価下落と国債利回り下落圧力」

5日発表された全般的に良好な米サービスセクターの指標を除けば、これまで発表されたデータは好ましくない形で予想を裏切っている。

これは商品価格と国債利回りの両方に大きな下押し圧力となっている(国債需要増加、国債価格上昇)。

クレジットスプレッドと株式には(少なくともまだ)重大な影響は出ていない。 

  

(7)「景気後退確率35%、ソフトランディングシナリオ50%、景気拡大加熱ではないシナリオが15%」

最近のデータは私が示した35%の米リセッション(景気後退)確率と一致する。これは基本シナリオでもなければ、最有力シナリオでもない。これ以外の確率についてはソフトランディングシナリオが50%、景気は拡大するが熱くはないという望ましい「ライト・テール」シナリオが15%だ。

  

(8)「FOMCが7月に利下げサイクルを開始することを期待」

こうした見通しを基に私はFOMCが7月に利下げサイクルを開始することを期待したい。

英中銀については同国の選挙後だ。日本銀行は引き続きG7諸国の中では例外的だろう。日銀は長期にわたる超低金利から正常化への道を歩み始めたばかりだ。

 

(9)「G7(日銀以外)の利下げは米金融政策当局にかかっている」

景気見通しにより裏付けられるであろう規模やペースでG7諸国の中銀(日銀を除く)が利下げするかどうかは、米金融政策当局にかかっている。

これはまたFOMCが7月に利下げに踏み切るかどうかも左右する。

市場によればこの可能性は非常に低い。

  

(10)「米金融政策当局が行うべき2つの考え方の転換」

 1)「将来起こり得る展開も予測するより戦略的なアプローチへの転換」

入手する過去のデータにかなり依存した極めて後手な対応から、将来起こり得る展開も予測するより戦略的なアプローチへの転換だ。

この転換が遅れれば遅れるほど、景気抑制的な金融政策が長期化する可能性は高くなる。

 2)「インフレ目標を3%に近づけること」

もう一つの責務である最大限の雇用と整合性を持たせつつ、今後数年間に目指すべき適切なインフレ水準は現在の2%よりも3%に近いという認識を持つことだ。

米金融政策当局にとってさらに困難な転換だ。

 3)重要なのは政策当局者が、世界経済・金融での相互依存のパターンと国内経済の両方で見られる構造的変化の影響を理解する必要があるということだ。

  

(11)「米金融政策当局の転換が遅れればカナダやECBは為替市場の混乱を懸念し、必要な利下げができなくなる」

この2つで米金融政策当局の転換が遅れれば、カナダ中銀やECBなどは為替市場の混乱を懸念することになるだろう。

つまり為替変動によって、国内・域内の経済状況を理由とする複数回の利下げを実施する能力が制限されることになるからだ。

そうなれば世界経済にとって非常に残念だ。世界は既に芳しくない成長や深刻な不平等に苦しんでおり、各国政府は持続可能で包括的な繁栄の実現に向け、多くの課題を抱えている。

 

(モハメド・エラリアン氏はブルームバーグ・オピニオンのコラムニストです。このコラムの内容は必ずしも編集部やブルームバーグ・エル・ピー、オーナーらの意見を反映するものではありません)