英国の富裕層、夏の総選挙に慌てる-資産守るため急ぎ行動(24年6月6日 ブルームバーグ日本語電子版無料版)

 

記事(Benjamin Stupples、Charlie Wells)

 

(1)要点

  •     総選挙を前に富裕層顧客が「パニックモード」税務アドバイザー
  •     保守党と労働党は「ノン・ドム」に対する優遇税制廃止を公約に

 

(2)外国の億万長者からロンドンの金融街シティーのバンカーまで、英国の富裕層はスナク首相が夏の総選挙を発表して国民を驚かせた後、資産の避難を急いでいる。

  

(3)富裕層や資産アドバイザーへのインタビューによると、

一部の富裕層は

 1)投資を現金化したり、

 2)すぐに引き上げられそうな各種料金を支払ったり、

 3)英国を離れたりしている。

  

(4)「与野党友に、英国居住の外国人富裕層に対する優遇税制の廃止を公約」

与党保守党と野党労働党はともに、英国に居住する外国人富裕層(ノン・ドム)に対する優遇税制の廃止を公約に掲げている。

労働党のスターマー党首は、富裕層への課税をさらに強化する方針を打ち出しており、世論調査では同党が20ポイント以上リードしている。

 

 

(5)ポーランドを拠点とする超富裕層向け税務・移民アドバイザー、デービッド・レスペランス氏はスナク首相が7月4日の総選挙を決めたことについて、「それまでためらっていた顧客がパニックモードに入った」と述べ、首相は 「選挙の手りゅう弾のピンを抜いた 」と指摘した。

  

(6)「英国はEU離脱の混乱と2016年以降の短命保守政権で、昨年は3200人の富裕層を失った」

英国は昨年、正味で3200人の富裕層を失ったと、市民権アドバイザリー会社のヘンリー・アンド・パートナーズが見積もった。欧州で最大の流出であり、2022年の2倍だという。法的・政治的に安定しているという英国の評判は、欧州連合(EU)離脱の混乱と、2016年以降に5人という保守党政権の首相交代によって揺らいでいる。

  

(7)「ノン・ドム優遇廃止が進めば、重大で、しかも完全に回避可能な失策だ」

英国はモナコ、ドバイ、スイスといった富裕層に人気のある地域に後れを取っただけでなく、富裕層の外国人を誘致するプログラムを展開したイタリアやギリシャといった欧州諸国とも競争しなければならなかった。

英国は22年にいわゆるゴールデンビザ・プログラムを廃止した。

世界的な法律事務所チャールズ・ラッセル・スピーチリスのパートナー、ドミニク・ローランス氏(ロンドン在住)はノン・ドムの優遇廃止について、「もし発表されたとおりに変更が進めば、重大で、しかも完全に回避可能な失策だ」と指摘する。

 

(8)「労働党の資産課税の増税公約」

労働党はまた、

 1)プライベートエクイティー専門家や

 2)私立学校の学費

への課税も追加しようとしている。

 3)ノン・ドムを巡る提案の一環として、信託構造で保有される海外資産に対する相続税免除の撤廃も目指している。

 

(9)「首相夫人もノン・ドム優遇の恩恵を受けていた」

ノン・ドムは海外での所得について英国で課税されない。スナク首相の妻のアクシャタ・ムルティ氏もこのステータスの恩恵を受けていることが22年に明らかになった。メディアを騒がせた後、ムルティ氏はインドのソフトウエア大手インフォシス社から得た収入の一部に対して英国で税を支払うことにした。

  

(10)「億万長者や百万長者の中にはスイスやイタリアへの移住を準備する人も」

あるシティーの法律事務所では、ここ数カ月にノン・ドム関連の変更に関連した問い合わせを3ダース以上受けたという。億万長者や百万長者からの相談だと、事情に詳しい関係者が語っている。そのうちの1人はスイスに移住し、もう1人はイタリアへの移住を準備しているという。

  

(11)「戦後最高水準の税金の高さに不満を持つ英国人が海外移住を希望している」

ロンドン在住の英国外出身の元ヘッジファンド運用者は、両主要政党の政治的方向性への不満もあり、他の欧州諸国に移ろうとしている。

また、不動産投資を行っている超富裕な英国人も、英国でのフルタイム生活から、年に3カ月だけ英国で過ごし、残りをドバイやモナコなどの低税率地域に住む方法に切り替えることを検討している。

  世界的な法律事務所オジェで超富裕層向けの税務・信託アドバイザーを務めるサイモン・ゴールドリング氏は、海外移住を希望する英居住者の実例をいくつか知っているが、そのほとんどが戦後最高水準の税金の高さに不満を持つ英国人だという。

 「彼らはうんざりしている」と、自身も昨年英国からドバイに転居した同氏は述べた。

 

グラフ UK's Non-Dom Population (Kは1000単位)

  2015年  123.0K

  2016年  119.4K

  2017年   91.6K

  2018年   79.9K

  2019年   79.8K

  2020年   77.3K

  2021年   68.0K

  2022年   68.8K

 

Source: HM Revenue & Customs

Note: shows data for tax-year end

 

原題:Britain’s Rich Race to Protect Their Wealth From Election Hit(抜粋)