きょうのことば「次世代半導体」世界大手、微細化競う(24年6月5日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)▽…回路線幅が数ナノ(ナノは10億分の1)メートルと微細な半導体。

半導体の回路は微細になると計算を担う素子の数が増え、性能が高まる。現在、量産されている最先端品は3ナノ品で、半導体各社は次の世代の2ナノ以下の量産技術の開発を進めている。2ナノ品は人工知能(AI)サーバーや自動運転に使われる見通しだ。

 

(2)▽…世界最大の受託生産会社である台湾積体電路製造(TSMC)と韓国サムスン電子、米インテルが3ナノ品を量産し、3社は25年までに2ナノ品の量産を目指す。

日本企業は2000年代に微細化技術の開発競争から脱落していた。ラピダスが22年8月に設立され、米IBMの技術供与を受けて27年に2ナノ品の量産を目指している。

 

(3)▽…半導体の進化のペースはこれまで1年半から2年で半導体素子の数が2倍になり、「ムーアの法則」と呼ばれてきた。

ただ、回路線幅が微細になるにつれて物理的な限界も指摘され始めた。機能の異なる複数の半導体チップを基板上で組み合わせる「チップレット」など微細化以外の技術開発も進む。

材料や製造装置を手掛ける日本メーカーが要素技術を持つ。

 

■「半導体業界構造を一変させる技術!?「チップレット」とは?」伊藤 元昭

2023.04.26  TELESCOPE

1)これまで半導体チップは、素子や回路の配線幅を微細化することで、高性能化・多機能化・低消費電力化・低コスト化を図ってきた。微細化というたった1つの技術開発アプローチで、トレードオフを抱えることなくチップの価値を向上できた。ところが近年、半導体の微細加工技術が高度化するにつれて、製造時の歩留まりを高めることが困難になってきた。半導体ビジネスとして成立しないほどわずかな良品しか作れない例も出てきている。

2)これまでの半導体チップは、チップ上に集積する素子や回路を描く配線の線幅を継続的に微細化させることで進化してきた。素子や配線が微細になれば、小さなチップ内により大規模な回路を集積可能になり、しかも1つひとつの素子の高性能化・低消費電力化も実現できる。

3)チップレット

これまで1チップに集積した大規模な回路をあえて複数の小さなチップに個片化し、「インターポーザ」と呼ぶチップレット間をつなぐ基板上に乗せて大規模化して1パッケージに収める技術である。豚の子どもは英語でピッグレットと呼ばれるが、同様に小さなチップという意味を込めてチップレットと呼ばれている。

同じ微細加工技術で作れば、製造中に、ほぼ一定の確率でチップ上の任意の場所で不良が発生する。製造条件のバラつきや、不良の原因となる不純物やゴミの混入は変わらないからだ。そして、チップ面積(チップレット)が大きいほど、不良チップが生まれる頻度は高くなり、歩留りが下がる。ここで重要な点は、たとえチップの一部に不良が発生しただけでも、チップ全体が不良となってしまうことだ。

無理をしてチップ面積が大きな大規模回路を一括形成するよりも、回路を個片化して面積を小さくしたチップレットを寄せ集めた方が大規模回路全体の歩留まりは高まる。チップレット1つひとつの歩留まりが高まるだけでなく、良品のチップレットだけを選別して大規模回路を形成できるからだ。