認証不正 日本品質の驕り(上)過信が招いた法令軽視 トヨタ本社に国交省立ち入り 自浄作用働かず(24年6月5日 日本経済新聞電子版)

 

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(1)自動車大手で国の認証手続きを巡る不正が発覚した。

トヨタ自動車からは法規よりも厳しい自社の品質基準への「過信」で、手続きを軽視する姿勢が浮かぶ。競合やグループ内での不正が社会問題化するなかでも情報を共有せず、自浄作用が働かなかった。

日本の産業を代表する自動車業界の信頼が揺らいでいる。

 

(2)4日午前9時半ごろ、国土交通省の職員5人が正門からトヨタ本社(愛知県豊田市)に立ち入り検査に入った。

本社にある資料やサーバーなどのデータを確認した。

 

(3)「悪質なのは「レクサスRX」のケース」

現時点で公表されている不正6事例のうち悪質性が目立つのは、高級車ブランド「レクサス」の車両「RX」のケースだ。

2015年のエンジンの出力試験の際、狙っていた数値が出なかったため、その数値が得られるようにコンピューターで調整して再試験をしたデータを使った。その後の調査では試験用の排気管が破損していたと判明しており、データの改ざんに当たる。

 

(4)不正のうち3事例は、国の基準には適合しないものの、より厳しい条件下でなされた試験データを認証用に提出していた。

「エアバッグのタイマー着火」は、トヨタのグループ会社のダイハツ工業の不正でもみられた手法だ。本来はシステム制御でエアバッグが自動的に作動すべきところ、試験段階ではシステムが未完成だったため、タイマーで作動を操作する手法を用いた。

トヨタの場合は、シートベルトの性能向上を目的とした開発試験だったため、エアバッグの作動を遅らせた方がより安全性を検証できると判断。そのためタイマー着火を選んだが、これが認証基準には適合しなかった。

トヨタの品質は世界で最高レベルの評価を得ていた。

米自動車情報のケリー・ブルー・ブックによると、トヨタのレクサスブランドは消費者が選ぶ「最も信頼される高級ブランド」を24年まで9年連続で受賞している。

 

(5)トヨタで品質保証を担当するカスタマーファースト推進本部の宮本真志本部長は3日の記者会見で「より厳しい条件で車の開発をしているという自負もあると思う。その中で認証という意識がちょっと薄かったというのは否めない」と述べた。

 

(6)現場では品質向上への努力があった一方で、法規の軽視が不正の表面化を阻んだ可能性がある。

トヨタの豊田章男会長は3日、「不正の撲滅は無理だと思う。問題が起きたら事実を確認し、直すことを繰り返すことが必要だ」と説明した。

トヨタには従業員が匿名で不正を告発できる窓口も設けられていた。だが今回の不正はそうした窓口から声が上がったのではなく、国交省の指示で聞き取り調査を進めるなかで発覚したという。

 

(7)「型式指定」はひとたび事故が起きれば人命に関わる車両を安全に量産するための認証制度だ。保安基準や関連の告示で試験方法が細かく定められているが、安全性向上につながる場合などは当局に相談して試験方法を見直すことができる。

豊田会長は「より厳しい基準を用いていた」と述べた上で「会見の場で私が言うべきではないが、制度自体をどうするのかという議論になっていくといい」とも話した。

 

(8)テレビ中継を注視していた国交省幹部は「安全性の検査は複雑に絡み合っていて、一部を厳しい条件で試験すればいいものではない」とした上で、「もし試験方法を守るという規定を知らなかったならコンプライアンス(法令順守)研修が不足している」と指摘する。

同省は5日もトヨタの立ち入り検査を継続し、資料の分析や関係者の聞き取りを通じて行政処分の要否を検討する。

トヨタの経営陣が現場との距離を縮め、法規を守る意識を根付かせることができるか。電気自動車(EV)などで急成長する新興勢との競争が激しくなる中、ガバナンス改革のスピード感が問われている。