(6月1日)アングル:アルゼンチン止まらぬ物価高、隣国の町もゴーストタウン化(24年6月1日 ロイター日本語電子版無料版)

 

写真 5月27日、アルゼンチンのミレイ政権が昨年12月に行った通貨ペソの大幅に切り下げやその直後に導入した「クローリング・ペッグ制」、そして根強いインフレが、輸入と輸出の両面を通じて経済活動や国民生活に痛みを与え続けている。写真は16日、アルゼンチン国境に近いパラグアイ・ナナワで、アルゼンチンとパラグアイの紙幣をやり取りする店員と買い物客(2024年 ロイター/Cesar Olmedo)

 

記事[ナナワ(パラグアイ) 27日 ロイター (Daniela Desantis、 Lucinda Elliott)] - 

 

(1)アルゼンチンのミレイ政権が昨年12月に行った通貨ペソの大幅に切り下げやその直後に導入した「クローリング・ペッグ制」、そして根強いインフレが、輸入と輸出の両面を通じて経済活動や国民生活に痛みを与え続けている。

 

(2)「物価上昇率を加味したドル建て価格は高騰」

クローリング・ペッグ制は、毎月2%と抑制された幅でペソ切り下げを容認する仕組みだが、これはペソの過大評価をもたらしており、再切り下げの可能性もくすぶる。

 一方で物価上昇率を加味したドル建て価格は高騰が止まらない。

例えば今年初め時点で1000ペソの商品は公式レートを適用すると1.24ドルだったが、4月までの65%という累積的な物価上昇率を踏まえれば、4月末の同じ商品は1650ペソ、1.88ドルと50%余り値上がりしたことになる。

 

(3)「アルゼンチンの物価はウルグアイよりも180%低かったこの半年で差は50%に縮まった」

(ウルグアイ・カトリック大学でウルグアイとアルゼンチンの物価動向を比較研究している経済学者のヒメナ・アブレイユ氏)

 ミレイ大統領就任前の昨年9月はウルグアイよりアルゼンチンの物価が180%低かったが、今年3月になるとアルゼンチンの物価上昇によって差は50%に縮小。

アブレイユ氏は「目先、アルゼンチンの輸出品は競争力が低下する」と指摘した。

 

Reuters Graphics

 

<消費に悪影響>

 

(4)昨年9月

牛肉1キロ当たりの平均価格が2846ペソ(当時の並行市場レートで約3.70ドル)で、これは最低7ドルだったウルグアイ首都モンテビデオやチリ首都サンティアゴを大きく下回っていた。

今年4月

牛肉は1キロ6505ペソ、7ドル近くに跳ね上がっている。

 

(5)(17年前に米国からアルゼンチン首都ブエノスアイレスに移住したページ・ニコラスさん(37))

 昨年12月のペソ切り下げ以降、主に医療費や公共料金、食料品などの負担が膨らみ、家計支出は約150%も増加したと明かした。

 

(6)アルゼンチンではオリーブ油や歯磨き粉までがちょっとしたぜいたく品になりつつある。ロイターが調べたところ、ブエノスアイレスではオリーブ油500cc(500ミリリットル)の平均価格が15ドルで、幾つかのブランドは26ドルに設定されている。コルゲートの90グラムの歯磨き粉は平均4976ペソ、5ドルとパラグアイやウルグアイの小売店の2倍だ。

旅行業界で働くニコラスさんの話では、アルゼンチンの商品やサービスはかつて観光客にとって割安だったが、今は近隣諸国や米国とさえも同じ水準になってきた。ブエノスアイレスでの外食費用は1年前のほぼ倍に上がっているという。

 

<隣国の町にも逆風>

 

(7)「同国との国境にあるパラグアイの町ナナワにまで逆風をもたらしている」

(かつてのナナワ)

 割安だったアルゼンチンの燃料や医薬品、食料品などを求めるパラグアイの買い物客で大賑わいだったが、現在は「ゴーストタウン」に変わった。

アルゼンチンの急激な物価上昇とクローリング・ペッグ制の下でのペソの過大評価により、肝心の割安感がなくなってしまったからだ。

当地の薬局で働くマルタさん(57)は「以前は万事が順調で何でも売れたが、今はもう何も出て行かない。2カ月間ずっとこんな調子で、町は死んでいる」と語る。

ナナワの複数の商店経営者はロイターに、ミレイ政権が発足した昨年12月以降で売上高は60―80%も落ち込んだと明かした。

 

◆クローリングペッグ制

 インフレ率など特定の経済指標の変化に合わせて為替相場を調整するもの。

■為替相場制度 公益社団法人国際通貨研究所

 

相場変動にどのようなルールでどれだけ柔軟性を持たせるかで何種類かに分類できます。

 

◆固定性の強い制度

①ドル化:自国固有の法定通貨を持たず、他の国の通貨を法定通貨として流通させます。一般にはドルであることが多いので、俗に“ドル化(Dollarization)
 と呼ばれます。
②単一通貨導入:ユーロのように複数の国で単一通貨を導入します。
③カレンシーボード制:香港のように、国内通貨発行の上限を保有する外貨準備残高に合わせ、準備通貨と自国通貨の為替相場を固定します。

◆ある程度柔軟な制度

④バスケットペッグ制:経済関係の深い複数の国の通貨の通貨バスケットを作り、バスケットの価値の変動に合わせて自国通貨を調整するものです。

⑤クローリングペッグ制:インフレ率など特定の経済指標の変化に合わせて為替相場を調整するものです。
(バスケットペッグ制もクローリングペッグ制も、一定期間の変数の変化に合わせて定期的に調整することが多いので、実際の運営は、ペッグのターゲットはある程度幅を持たせることが多く、このためペッグではなくクローリングバンド制などと呼ばれることがあります。)

⑥管理変動相場制:特に相場のターゲット算出の方法を持っているわけではありませんが、当局が適宜介入して、為替相場の水準を適切な方向に誘導するものです。適切な方向や適切な水準には、バスケット制のような経済関係の深い他の複数通貨の変動を見たり、内外インフレ格差を見たりしますので、操作の手法は違っても何を指標として相場水準や方向性を考えるかという原理に、バスケット制やクローリング制との大きな違いはありません。

 

◆高い柔軟性を持つ制度

⑦変動相場制:市場の需給に完全に相場動向を任せる制度です。米ドルを含めて主要通貨で実際にこの制度に徹している国はないと言ってよいでしょう。