日中韓FTA正気の沙汰か 中国製EV、太陽光など洪水輸出で西側分断思うつぼ 田村秀男(24年6月2日 産経新聞オンライン無料版)

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記事の概要

(1)要点

  1)「日中韓自由貿易協定(FTA)締結交渉の加速で一致」

  2)「FTAで、中国過剰生産の激安商品のはけ口になりたいのか」

(2)「台湾、尖閣諸島周辺海域での中国の威圧行為はエスカレートする一方」

(3)「中国は「自由貿易」と称して補助金漬けの自国企業が安売り輸出し世界貿易秩序を破

(4)「中国の23年の実質経済成長率はゼロ%前後の成長率」

(5)「中国の自動車メーカーは手厚い政府補助金の支援を受けて過剰生産になっている」

(6)「激安の鉄鋼や太陽光パネルに対し米欧は高関税で対抗、日本で関税ゼロは自殺行為」

 

写真 日中韓首脳会談で握手する(左から)岸田首相、尹大統領、李首相=27日、ソウル(内閣広報室提供)

 

記事

 

(1)要点

1)「日中韓自由貿易協定(FTA)締結交渉の加速で一致」

岸田文雄首相は今週、中国の李強首相、韓国の尹錫悦(ユン・ソンニョル)大統領との3カ国首脳会談を行い、中断している日中韓自由貿易協定(FTA)締結交渉の加速で一致した。

共同宣言には、「自由で公正な質の高い互恵的な日中韓FTAの実現に向け、交渉を加速するための議論を続ける」と盛り込まれた。

 

2)「過剰生産した廉価な製品のはけ口になりたいのか」

習近平国家主席率いる中国は、EV(電気自動車)をはじめ過剰生産した廉価な製品を海外に輸出して国際社会の反発を招いている。

岸田首相は、日本経済や自由主義国の連携、環境を守る覚悟があるのか。産経新聞特別記者の田村秀男氏は、中国経済の問題点をデータで示し、日中韓FTAに潜む「中国の罠(わな)」を解き明かす。

 

(2)「台湾、尖閣諸島周辺海域での中国の威圧行為はエスカレートする一方」

日中韓3カ国首脳はソウルでの会談の結果、FTAの交渉再開で合意したという。経済学の教科書は「自由貿易でウィンウィン(共栄)」と説くが、共産党独裁の中国に期待するのは正気の沙汰ではない。

日中韓FTAは2019年から中断していたが、原因となった政治的対立は解消どころではない。台湾、沖縄県・尖閣諸島周辺海域での中国の威圧行為はエスカレートする一方だ。中国の習政権は対日輸入・輸出の禁止措置で威圧する。それを止めるはずはないだろう。

 

(3)「中国は「自由貿易」という名目のもとに世界貿易秩序を破壊している」

中国はEVなどで安値輸出攻勢を加速させ、「自由貿易」という名目のもとに世界貿易秩序を根底から揺るがせている。

対中貿易依存度の高い韓国はともかく、対中強硬策を打ち出しつつある先進7カ国(G7)の一角、日本が中国側の誘いに応じると、西側の分断をもくろむ習政権の思うつぼにはまることになる。

 

 

(4)「中国の23年の実質経済成長率はゼロ%前後の成長率」

経済外交担当の李氏は、日韓とのFTAを外国企業投資回復の呼び水にしたいのだろう。グラフは中国の不動産投資と外国の対中直接投資の前年同期比増減率である。

21年末に始まった不動産バブル崩壊に伴い、中国経済を牽引(けんいん)してきた不動産投資が大幅に落ち込んだままである。

習政権はそれでも実質経済成長率は5%台を維持していると喧伝(けんでん)しているが、「粉飾」の疑いがある。不動産関連を中心とする固定資産投資、家計消費、純輸出の原データから再計算すれば、23年はゼロ%前後の成長率にしかならない。

外国企業は勢い、対中投資に慎重になる。

23年は前年比8割減、今年1~3月は前年同期比56%減となった。直接投資減退に引きずられて、株式、債券などの証券投資も低迷している。

 

(5)「中国の自動車メーカーは手厚い政府補助金の支援を受けて過剰生産になっている」

習政権が大号令をかけているのが、「新質生産力」と呼ぶリチウムイオン蓄電池などEV関連製品を中心とする新成長分野への投資、生産の増強である。

中国各地でこれらの分野の工場建設ラッシュが起きており、たちまちのうちに生産能力過剰に陥った。

中国の自動車メーカー各社は政府補助金など手厚い支援策を受けて、続々とEVに新規参入してきた。中国製EV販売台数は23年、世界全体の59%に上った。

 

◆日韓は中国に〝関税原則ゼロ〟

 

(6)「鉄鋼や太陽光パネルは激安、米欧は高関税で対抗なのに日本で関税ゼロは自殺行為」

生産過剰は鉄鋼、太陽光パネルなど中国が圧倒的な世界シェアを誇る製品全般に及び、鉄鋼や太陽光パネルのドル建て輸出単価は21年末に比べて20~40%下落している。すさまじい中国の洪水輸出に対し、米欧は高関税で対抗しようとしている。

バイデン米政権は8月1日から中国製EVの関税を100%、鉄鋼を25%、太陽光パネルを50%とする。

対照的に、日韓は中国とFTAを結び、中国製品の輸入関税を原則ゼロにするというのである。

日本の山林原野や農地は、中国製太陽光パネルでますます覆われるようになり、環境破壊が頻発するだろう。

太陽光と同様、「クリーンエネルギー」を名目に中国製EVが走り回れば日本はどうなるのか、岸田首相は気にならないのだろうか。

(産経新聞特別記者 田村秀男)