春秋(24年5月31日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)最近、医師向けの手紙の一作法を知って驚いた。

宛名に「御机下(ごきか)」といった言葉を添えるのだという。机下は机の下へ差し出します、とへりくだる意。山田先生御机下、となる。古語の類と思っていた。外野がとやかく言う話でもない。が、ふと白い巨塔が目に浮かんだ。

 

(2)▼敬意を表す言葉も、置かれた状況次第でさまざまに含意を生じる。

「先生」にしてもそうだろう。精選版日本国語大辞典は「教員、医師、議員などを尊敬して呼ぶ語。かなり高い敬意を有する」としながら「からかい気分で用いることがある」。コラムでよく見かけるカタカナ書きのセンセイは、高い敬意からはほど遠い。

 

(3)▼さて、威圧的なセンセイの怒声に、周囲はどれほど我慢を強いられてきたのだろう。

長谷川岳参院議員が参院地方創生・デジタル特別委員長を辞任する意向を表明した。地元自治体の職員らに「ぶち切れるよ」などとパワハラまがいの言動をしたとして問題になっていた。再び類似事案があれば議員辞職する決意だそうだ。

 

(4)▼バッジを着け、もみ手をされるうちに、どこかで思い違いをしてしまったのか。

「先生と言われるほどの馬鹿(ばか)でなし」なんて古い川柳がある。指導的立場の人物が真に尊敬に値するか、昔から人々は鋭い値踏みの視線を投げかけてきたのだ。先生と呼ばれたら、偉ぶるよりもギクリとする。託すならば、そんな先生がいい。