トランプ氏裁判、全34罪状に有罪評決 大統領選に打撃(24年5月31日 6:15 日本経済新聞電子版)

 

写真 有罪の評決をうけ、ニューヨーク市マンハッタンの裁判所をあとにするトランプ氏(30日)=AP

 

記事【ニューヨーク=朝田賢治、弓真名】

 

(1)トランプ前米大統領が自身の不倫の口止め料を不正に処理したとして罪に問われている裁判で、陪審団は30日、同氏を34件の罪状すべてで有罪とする評決を下した。

判事が量刑を決める判決は7月11日に決まる。

トランプ氏は控訴するとみられる。11月に控える大統領選への立候補は可能だが、再選に向けて逆風が強まりそうだ。米主要メディアが一斉に報じた。

 

(2)トランプ氏は2016年の大統領選の前後に不倫相手に支払った口止め料を弁護士費用として事業記録に計上し、選挙戦に不利な情報を隠したとして23年3月にニューヨーク州地検に起訴された。

米国で大統領経験者が刑事事件で起訴を受けるのは、史上初めてだった。

 

(3)「元顧問弁護士のマイケル・コーエン氏が口止め料支払いを「トランプ氏の指示だった」と証言」

起訴罪状は合計で34件。

陪審はすべてを有罪と認定した。

公判でトランプ氏の弁護団は一貫して無罪を主張して争ったが、元顧問弁護士のマイケル・コーエン氏が口止め料支払いを「トランプ氏の指示だった」と証言したことが重視されたとみられる。

 

(4)「量刑」

ファン・マーチャン判事が7月11日に決定する。

罪はいずれもニューヨーク州刑法の「第一級事業記録改ざん罪」で、重罪に分類される。保護観察や罰金のみならず、収監される可能性がある。

 

(5)トランプ氏は30日、有罪評決をうけて「腐敗した八百長裁判だった」と反発した。改めて潔白を主張し「最後まで戦い続ける」と大統領選に出馬する意向を示した。

トランプ氏は裁判そのものを「魔女狩り」と表現し、バイデン政権による政治的な迫害と批判してきた。多くのトランプ氏支持者らも同様の立場だ。

民主党支持者の多いニューヨーク州で有罪評決が出たことで米国内の政治的分断が深まりそうだ。

 

(6)世論調査では共和党支持層にもトランプ氏が有罪だった場合は支持を見直すと考える人が一部いる。

不倫相手とされるポルノ女優も証人として出廷するなどスキャンダラスな証言が相次ぎ、無党派層や女性有権者への印象が悪化した可能性もある。選挙戦に向けて逆風となる公算は大きい。

 

(7)トランプ氏はほかにも、20年の大統領選への選挙介入や、21年の議会占拠事件の扇動容疑など3件の刑事裁判で起訴されている。今回の裁判で有罪評決が出たことで、審理で不利に働くとの指摘もある。

大統領選への出馬条件には犯罪歴は含まれない。過去には獄中から出馬した者もいた。ただ、有罪評決を受けたまま、共和党の指名を受けた主要候補として出馬するのは極めて異例の事態だ。

 

◆多様な観点から(この記事のコメント欄)

 

「陪審評決の事実判断の部分は上訴できません」

福井健策(骨董通り法律事務所 代表パートナー/弁護士)

分析・考察

陪審制は米国では刑事裁判の骨幹ですが、逆に偏見や社会の空気に裁判が左右される恐れがある。

そのため、両陣営には陪審員候補に対して、一定の拒否権が認められます。

かつてO・J・シンプソンの殺人事件無罪を勝ち取った、当時「ドリームチーム」と呼ばれた弁護団は徹底してこの拒否権を行使し、「裁判前に決着はついた」という意見もあったほどでした。

今回も両陣営が拒否権を発動し、100人以上の候補者から選ばれた陪審団とのことですが、それをもってしても評決不一致には持ち込めなかったということですね。

陪審評決の事実判断の部分は上訴できません。

米国政治を左右する、陪審評決だったかもしれません。

 

「もし有罪判決ならトランプ氏への投票はしない有権者が一定数いる」

上野泰也(みずほ証券 チーフマーケットエコノミスト)
ひとこと解説

(1)スクリーンに「有罪(guilty)」と速報が流れた後、為替市場ではドル/円相場がややドル安円高に振れたものの、大きな動きにはならなかった。

有罪の評決が下されたが、トランプ氏側は控訴する可能性が高く、確定判決ではない。

マーチャン判事による量刑言い渡しは7月11日とまだ先で、トランプ氏が収監される可能性は低い。

「最後まで戦い続ける」とトランプ氏は述べており、選挙戦は継続される。

(2)当面注視すべきは、世論調査の結果である。過去の世論調査では、もし有罪判決が下るならトランプ氏への投票はしないと回答した人々が一定数いる。これらの(おそらくコアなトランプ支持ではない)人々の意向が選挙結果を左右する面がある。
2024年5月31日 7:38

 

「狂信的なトランプ支持者からの脅威に対する懸念も」

ロッシェル・カップ(ジャパン・インターカルチュラル・コンサルティング 社長)
分析・考察

(1)多くのアメリカ人が、トランプがこれまでの多くの問題行動に対する深刻な結果を逃れてきたことに対し、ついに正義が果たされ始めていると安堵し、喜んでいると思います。

(2)今の課題は、裁判官がどのような量刑を下すかということです。彼にかかるプレッシャーは非常に大きく、残念ながら狂信的なトランプ支持者からの脅威に対する懸念もあるでしょう。
2024年5月31日 7:25

 

前嶋和弘(上智大学総合グローバル学部 教授)
ひとこと解説

(1)一部が指摘した無罪だったり、陪審員の意見がまとまらないことはそもそもあり得なかったはず。

(2)両党支持者はこれで結束。その分、選挙への影響は限定的(記事見出しの「大統領選に打撃」は??)。

4つの訴追の中、これがそもそもの罪の重さが最も軽いのですが、他はたぶん選挙までの結審は時間切れ。
2024年5月31日 7:11