「男・女らしく」保育所で見直し マークや声がけ配慮、研修も(24年5月30日 日本経済新聞電子版)
記事
写真 東大和どろんこ保育園に設けられたおままごとのコーナーには、男女問わず多くの子どもたちが出入りしていた(東京都東大和市)
(1)要点
男の子はブルーや車、女の子はピンクやお花が好き。無意識にしてしまうことのある「性差の決めつけ」を見直そうとする動きが保育現場で広まっている。
保育者などによる従来の声がけの仕方などを見直し、子ども自身のジェンダーバイアスを生じさせないことにもつなげる。
図 保育中に見られるジェンダーバイアス
(2)
(東大和どろんこ保育園(東京都東大和市))
おままごとや電車遊び、工作などの遊びができるコーナーでは、男女問わず自分の好きな遊びをできるよう、配置や声がけなどを工夫する。
同園の宮沢叙栄施設長は「子どもたちが自分の好きなものを選ぶ環境を大切にしている」と話す。
宮沢さんが以前勤めていた系列園で、スカートをはいておままごとをする男の子に対し、周囲にいた子どもから「男の子なのに?」と声が上がったことがあった。そのときに保育士が「自分が好きなものを着ていいんだよ」と声をかけ続けたところ、周囲の子たちも「あの子はスカートが好きなんだ」と自然に受け入れるようになったという。
宮沢さんは「幼い子どもほど、男の子らしさや女の子らしさといった価値観を意識せずに過ごせる。子どもの『これがいい』という感覚を、大人が無意識に否定しないようにすることが大事」と述べる。
(3)「幼児期が自分らしく生きていくための基礎を作る」
首都圏を中心に保育施設を展開するグローバルキッズ(東京・千代田)でも同様に取り組みが進む。同社では2021年、職員に保育現場でのジェンダーを考える研修を行った。
「男の子は泣かない」「女の子はやさしく」という言葉が固定観念に基づくものであることや、性の要素を男女に二分するのは難しいといった内容について学び、園の環境を見直している。
(同社の中正雄一社長)
「保護者の意識も高まっている。自分らしく生きていくための基礎を作る幼児期に、周囲の大人が与える影響は大きいと意識して、子どもたちと向き合っていく」と話す。
(4)
保育所でのジェンダーに関する取り組みは、保育士養成の課程で取り扱われることがほとんどない。
(中部大学の非常勤講師である天野諭さん)
これまで、男の子には強さを連想させる恐竜や車のマーク、女の子にはお花や果物のかわいらしいマークを、大人が割り当てる保育所は多かった。
天野さんの研修や講義では、保育現場で慣例とされていた行動や声がけ、行事などに潜むジェンダーバイアスを紹介し、子どもたちへの影響を考える。
(ジェンダー教育に詳しい白百合女子大の内海崎貴子教授)
「ジェンダー平等というと、男女の違いを否定することと誤解されがち。性別にかかわらずに思いを自由に表現し、選択できることが重要」と話す。
(5)「異性や同性同士のカップルもいる、一人もいるなどの事実を伝える」
また日本の伝統行事では、ひな祭りや七夕など男女のカップルを前提にした行事もある。
「行事をやること自体が問題というわけではない。異性愛のカップルだけでなく男性同士や女性同士のカップルもいる、一人もいいなど、多様な姿を事実として伝えることが大事だ」と話している。