アルプスアルパイン統合5年、遠ざかる成長 「強み」の車載機器で構造改革(24年5月30日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)「成長への青写真を示せない」

アルプスアルパインが経営統合から5年を経ても、成長への青写真を示せないでいる。2024年3月期は3期ぶりに最終赤字に転落した。

不振が続く自動車向けディスプレーといった車載関連で、不採算事業からの撤退など事業の再構築を急ぐ。

中長期で利益が伸び続ける中核事業の強化が求められている。

 

(2)「不退転の決意で膿(うみ)を出し切る」。

泉英男社長は5月9日の決算説明会でこう強調した。2024年3月期の連結最終損益は298億円の赤字(前の期は114億円の黒字)だった。

 1)スマートフォン向け部品の売り上げが減った。

 2)欧州の自動車メーカー向け製品の販売も計画通り進まなかった。

アルプスアルパインは旧アルプス電気が連結子会社の旧アルパインと19年に統合した。

 

(3)「車載関連事業を構造改革 海外3000人規模の人員削減」

経営の足を引っ張るのが旧アルパインが強みを持っていた車載情報機器事業だ。9日に発表した構造改革は車載関連事業を主な対象とし、タッチパネル用フィルムやエアバッグ関連部品などから撤退を決めた。海外3拠点を閉鎖・再編し、3000人規模の人員削減に取り組む。

 

 

 

(4)「車載関連の営業損益の黒字見通し」

前期の減損処理の効果もあり、車載関連の営業損益は前期の11億円の赤字から85億円の黒字に転じると見通す。持ち分法適用会社のアルプス物流株も一部売却する。

 

(5)構造改革を進めつつ企業価値向上の旗も降ろしていない。28年3月期を最終年度とする中期経営計画で、1倍以上のPBR(株価純資産倍率)を目標に掲げる。28日時点は0.76倍だ。PERが足元の水準(約10倍)ならPBR1倍には、ROEを10%程度に引き上げる必要がある。

達成の壁は高い。

仮にアルプス物流株の売却益の半分(150億円)を自社株買いに充てても、配当や純利益が想定通りなら予想ROEは7.6%程度の計算だ。10%を超えるには利益の底上げが不可欠になる。

 

(6)「株価動向」

(ゴールドマン・サックス証券の高山大樹投資調査部長)

「自動車会社がデザインを決める段階から価値を認められるよう、製品力を高める必要がある」と指摘する。現状は赤字の阻止という「止血」策にとどまっており、競争力を高める成長投資の中身などは示されていない。

株価の28日終値は1458.5円。アルプス物流株売却の可能性が伝わった2月以降、収益持ち直しへの期待から続いた上昇基調は一服した。6月には事業別により具体的な構造改革案を打ち出すとみられる。明確な戦略が示されなければ、今度は失望売りが出かねない。

(小西夕香)