広がる米中対立の余波、米名門大留学生に強制退去処分-見えない理由(24年5月30日 ブルームバーグ日本語電子版無料版)

 

記事(Sheridan Prasso)

 

(1)要点

  •     昨年11月以降、米名門大に留学中の中国人学生20人余りが入国禁止に
  •     中国帰国を余儀なくされたスーザンさんの「研究テーマは医療AI」

 

(2)米税関・国境警備局(CBP)担当官がワシントンのダレス国際空港の窓のない部屋で執拗(しつよう)に詰問していた。

 中国共産党の党員か。

 中国政府から奨学金を受けているか。

 誰がここに送り込んだのか--。

  

(3)両親を訪ねるために中国に一時帰国していたバージニア大学の博士課程(生物医学画像専攻)2年のスーザンさんは、中国政府や共産党とは何の関係もないとその係官に答えた。

だが、彼女の答えは関係なかった。

スーザンさんの学生ビザは取り消され、片道1400ドル(約22万円)のチケットを支払い北京に戻ることを余儀なくされた。

その17時間後、彼女は武装した警備員によって飛行機に乗せられ、5年間の入国禁止処分を受けた。

  

(4)「これが私の人生を完全に破壊した」。

スーザンさんは報復を恐れ実名を伏せることを条件に、中国から涙ながらに動画インタビューに応じた。

(ブルームバーグ・ニュースがまとめたデータ)

昨年11月以降、ハーバード、イエール、ジョンズ・ホプキンスといった米国の名門大学に有効なビザを保持して留学している中国人学生少なくとも20人が同じような運命をたどっている。

スーザンさんや身元を明かさないよう求めた他の人々の証言は、弁護士やブログ投稿、中国政府によって確認された。

中国政府は1月にダレス空港への異例の渡航警告を出し、米国が招聘(しょうへい)した中国人職員でさえ税関係官から「嫌がらせや尋問」を受けていると主張した。

 

(5)米税関・国境警備局(CBP)の報道官

税関には国境を守る義務があり、「すべての米国市民を含め、国外からの入国者全員が審査の対象となる」と述べた。

手続きや強制退去、個々のケースについての質問には答えず、データの提供も拒否した。

  

(6)「TikTok禁止、中国人による不動産購入禁止、公立大学での教授禁止」

バイデン大統領と中国の習近平国家主席は昨年11月、サンフランシスコで開催した首脳会談で、教育、文化、ビジネス交流拡大の取り組みに支持を表明した。しかし、ビザの取り消し処分は両首脳が示した方針とは矛盾する動きだ。

米国ではまた、

 事実上のTikTok(ティックトック)禁止法に加え、

 中国人による不動産購入や

 公立大学で教えることを禁じる措置など、

反中的な政策が勢いを増している。

  

(7)「強制退去の理由は大統領布告10043号」

別のケースでは、今年細胞生物学の論文を発表するはずだったイエール大学の博士課程5年の女性が、スーザンさんの2週間前に同じ税関係官によってダレス空港で拘束された。

彼女のブログ投稿によると、20時間にわたる拘束中に「人種差別だけでなく性差別も」受けたという。彼女も同じく自費で中国行きの飛行機に乗せられ、5年間の米入国禁止を言い渡された。

(彼女の弁護士であるダン・バーガー氏)

「強制退去の理由は大統領布告10043号」だと説明された。

この大統領布告では「軍民融合」に関与している中国の大学に関係する人物の学生ビザを取り消すことを目指す。

軍民融合とは、軍事力向上に向けて外国技術を取得する中国共産党の国家戦略を指す。

  

(8)米国はこれまで、大統領布告に基づき禁止対象となった大学のリストを公表していない。だが、中国メディアは、国家留学基金管理委員会(CSC)からの奨学金とともに、強制退去の対象となった8校を報じている。

CSCの制度では、学生が留学終了後に中国への帰国を義務付けている。米国がリストを公表していないのは、当局者が必要に応じて脅威とする定義を拡大または変更できるようにするためだと、この規則に詳しい人物が匿名を条件に話した。

 

写真 バージニア大学の研究室では、スーザンさんの名前がガラスの仕切りに書かれたまま空席となっている。

 

(9)「研究テーマは医療人工知能(AI)」

スーザンさんがなぜ国外退去処分を言い渡されのか理解できないでいるが、大学のウェブサイトに掲載されている「研究テーマは医療人工知能(AI)」と書かれた彼女の研究内容の記述が手掛かりとなるかもしれない。

米国が中国のAI技術発展を阻止しようとしている中で、AIに言及したたった一文が理由なのだろうか。「私たちが思いつくのはそれだけだ」とスーザンさんの同僚の1人が匿名を条件に語った。

 

(10)

スーザンさんの担当弁護士によると、ダレス空港で係官に卒業後の進路を尋ねられた際、彼女はAIに興味があると話したが、それが強制退去の理由には挙げられなかった。

スーザンさんは係官に、中国に帰国することも、米国にとどまることも両方あり得ると話したという。

写真 空席のままとなっているスーザンさんの研究室Photographer: Sheridan Prasso/Bloomberg

  

税関は5年間の入国禁止処分の取り消しを求める弁護士の申し立てに応じず、その期限も定めていない。

スーザンさんは5カ月がたった今もトラウマ(心的外傷)を抱えたままだ。西側の教育を受けることに人生のすべてを費やしてきたというスーザンさんは、米国で学んだことをガン診断の改善といった医療問題に役立てたいだけだったと話す。

「あの係官は誤解して私の情報を間違って記録し、なぜ本当のことを言わなかったのかと問い詰めてきた」とスーザンさん。

眼鏡もないまま一晩閉じ込められた冷たい部屋には床にマットが敷かれただけで、トイレを使う際にも監視の目から逃れられなかったという。

中国への帰国便に搭乗したのは大みそかだった。空の上で新年を迎えた乗客が歓声を上げる中で、スーザンさんの目には涙があふれてきた。

現在は中国北部にある両親のマンションで暮らすスーザンさん。絶望的な気分で「どうしたらいいのか分からない」と語った。

 

原題:Expulsions of Chinese Students Spread Confusion From Yale to UVA(抜粋)

 

 

■中国の「国家情報法」とは?その危険性は?わかりやすく解説  HOUGAKU Cafe

https://foetimes.com/377/#:~:text=まとめ-,「国家情報法」とは何か?,的なリスク」でもありません。

 

「国家情報法」とは何か?

 

「国家情報法」とは、「国の情報活動を強化、保障し、国の安全と利益を守ることを目的とする」法律。

中国製通信機器・通信サービスを使うべきではないと言われる理由は、実は、「ハード的なリスク」でも「ソフト的なリスク」でもありません。

中国製通信機器・通信サービスには、深刻な「法的リスク」が存在するのです。

その深刻なリスクとは、「国家情報法」という中国の法律です。

この法律は、「国の情報活動を強化、保障し、国の安全と利益を守ることを目的」としています。

これだけを見ると、一見、どこの国にもありそうな法律です。

では、「国家情報法」のどの部分に、法的リスクが存在するのでしょうか。

 

「国家情報法」のリスク

 

◆「国家情報法」第7条

 

(1)「国家情報法」の最大の懸念点は、「国家情報法」第7条にあります。

(中国「国家情報法」第7条)いかなる組織及び個人も、法律に従って国家の情報活動に協力し、国の情報活動の秘密を守らなければならない。国は、そのような国民、組織を保護する。

同法第7条によれば、中国の国民や組織は、中国政府の情報活動に協力する義務があるということが示されています。

これは、すなわち「中国国民・中国企業は、中国政府の指示があればスパイとして活動する義務がある」ということです。

(これについては、以前の「HUAWEI製品を使ってはいけない理由」の記事でも解説しました。)

 

(2)中国国民・企業は、「国家情報法」第7条によって、中国政府によるスパイ活動の命令を拒否することができないのです。

(井形彬多摩大学ルール形成戦略研究所客員教授)

 同法の仕組みを「たとえば、中国製のサービスを使用して中国に不利益な活動をする人物を中国当局がテロリストと認定すれば、サービス運営者はこの人物の情報を提出するよう求められる。運営者はおそらく中国企業として拒否できない」と述べています※。

(※朝日新聞デジタル2021年4月12日「見えぬ中国の「情報」リスク LINEが突きつけた問い」より)

 

◆情報流出の危険性と対策

 

(3)「LINEの個人情報流出リスク」

先日も、コミュニケーションアプリのLINEをめぐっては、ユーザーの電話番号や本名などの個人情報が、業務委託先の中国・大連の拠点にいる中国人技術者から閲覧可能だったことが分かり、国民からはサービスの利用を不安視する声が多く上がりました。

日本で最も利用者の多いコミュニケーションアプリにおいてこのような事態が発覚したことは、安全保障上、極めて重大な問題といえるでしょう。

いまやLINEは、仕事の連絡や公共サービスの利用にも使われるようになり、インフラとしての機能を担っています。

 

(4)中国政府からみれば、LINEに登録した個人情報はいわば「宝の山」であるにもかかわらず、LINEは「国家情報法」のリスクを軽視しており、意識の低さが露呈した最悪のケースといえます。

 

(5)「リスクを減らすためには、不用意に「中国製の通信機器・通信サービス」を使わない心がけ

では、個人がリスクを回避するためには、どうすればよいのでしょうか。

もちろん、「そもそもLINEを使わない」など、「国家情報法」のリスクが存在する通信機器・通信サービスを使わないことが確実です。

しかし、これはあまりに非現実的です。

メール・電話を使う世代であればまだしも、若者にとって、LINEは人とつながるための不可欠なツールです。

また、どこの国にデータを保管しているかについてまで公表している企業は少なく、そのリスクを完全になくすためには「インターネットを使わない」ことくらいしかできません。

ですから、リスクから自らの情報を完全に守ることはほぼ不可能です。

そのような中において、少しでもそのリスクを低減するためには、不用意に「中国製の通信機器・通信サービス」を使わない心がけが必要です。

例えば、

 1)「生活に欠かせないLINEはやむを得ないにせよ、tiktokなど、生活に不可欠でないサービスは極力登録しない・捨てアカウントで登録する。

 2)スマートフォン・パソコン等、通信機器の購入に際しては、中国製でないかを確認する。」

などであれば現実的です。

 3)これらを対策することで、自分だけでなく、他者を守ることにもつながります。

 例えば、中国製のスマートフォンを使っていた場合、これらに紐づいた他者の情報も危険にさらされることとなります。

よく、「自分の情報が抜かれたところで、何の価値もないし平気だ」という人がいます。

 

(6)「本人の「連絡先」に登録の友人・職場の情報、スマホのカメラ機能・録音機能を用いたスパイ活動など、他者の情報も流出」

問題はその本人の情報だけでなく、「連絡先」に入っている友人・職場の情報、スマートフォンのカメラ機能・録音機能を用いたスパイ活動など、他者の情報も流出する恐れがあることです。

自分が加害者側にならないためには、そのリスクを認識し、今一度、身の回りの通信機器や通信サービスを見直す必要があるのではないでしょうか。

 

◆中国政府の反論

 

(7)「第8条で人権保障するといってる」

この「国家情報法」第7条の懸念に対し、中国政府の反論があります。

それが、「国家情報法」第8条です。

(中国「国家情報法」第8条)国家情報活動は法に基づき行い、人権を尊重及び保障し、個人及び組織の合法的権益を守らなければならない。

 つまり、中国は「国家情報法」を適用するにあたっても、人権や個人・組織の合法的権益を守るというのです。

しかし、これを信用する者は皆無でしょう。

 度重なる人権軽視姿勢を貫く中国政府の”人権尊重”を誰が信用するのでしょうか。

第8条は、「国家情報法」に対する批判をかわすためだけにつくられた、無意味な条文だと捉えるべきでしょう。

 

まとめ

・「国家情報法」とは、「国の情報活動を強化、保障し、国の安全と利益を守ることを目的とする」法律。

・「国家情報法」第7条により、中国の国民や組織は、中国政府の情報活動に協力する義務がある。