「福祉より国防」欧州の転換2 「戦時経済に戻ると決めた」(24年5月29日 日本経済新聞電子版)
記事
(1)「我々は『戦時経済』に戻ると決めた」(フランスマクロン大統領)
マクロン(46)は4月、仏企業ユーレンコが南西部ベルジュラックに建設する火薬工場の起工式でこう宣言した。第1次世界大戦などの総動員体制を指す表現を、ウクライナ侵略以来マクロンはしばしば口にする。
写真 フランス製武器の最大の輸出先はインド。マクロン大統領(右)はトップセールスを展開する
(2)ウクライナの危機をきっかけに、欧州の武器の圧倒的な供給不足が明らかになった。
欧州連合(EU)はウクライナに3月末までに100万発の弾薬を提供すると表明したが、実際に届けられたのは半分程度だった。
弾薬生産能力について、防衛関係者の間では強気な予測が飛び交う。
「米国は年間100万発、欧州は200万から300万発になる」。
(独防衛大手ラインメタル最高経営責任者(CEO)、パッパーガー)
仏政府はユーレンコなど自国企業に生産強化を促し需要取り込みを狙う、と言い切った。
(3)「マクロンは自ら武器のセールスもいとわない」
一方で多くの防衛企業は、巨額の投資が必要な生産ライン拡大に慎重な姿勢を崩さない。投資の回収には10年単位の時間がかかる。長期にわたって売り上げが確保できるか不透明という事情がある。
そこで仏政府は外交力をテコに武器輸出を拡大し、企業に生産を促す戦略も描く。
安定した輸出が見込めれば企業も生産増強に取り組みやすい。
そのためマクロンは自ら武器のセールスもいとわない。
(4)「スウェーデンはフランスの防空システム購入で合意」
「我々のパートナーシップはもっと拡充できる」。1月末には北大西洋条約機構(NATO)加盟を目前にしたスウェーデンを公式訪問し、首相クリステション(60)にこう呼びかけた。
訪問には国防相ルコルニュ(37)や欧州ミサイル大手MBDAのCEOベランジェが同行した。
両国はスウェーデンによるフランスの防空システム購入で合意し、MBDAとスウェーデンの防衛大手サーブの協力強化も決まった。
(5)「F18戦闘機を抑え仏戦闘機ラファール26機をインドに売り込み成功」
新興国へのセールスにも注力する。
マクロンはインド首相モディ(73)を23年の仏革命記念日に招き、蜜月関係を強調。
F18戦闘機を提案していた米国に競り勝ち、仏戦闘機ラファール26機の受注に成功した。インドは仏製武器の最大の輸出先だ。
(6)「有事に十分な武器を確保するには、平時から防衛産業を守る必要が」
有事に十分な武器を確保するには、平時から自国の防衛産業の生産能力を高める必要がある。武器輸出なしに国防は成り立たないと割り切り、フランスは国を挙げて戦時経済へと突き進んでいる。
(敬称略)
◆日経5月28日の記事
迫真 「福祉より国防」欧州の転換1 「我々はナイーブだった
写真 デンマークのフレデリクセン首相は防衛費増のため福祉への支出や減税を抑制すべきだと訴える=ロイター
<声「日経はこの流れがポピュリズム(大衆迎合主義)という