春秋(24年5月29日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)横浜に赴任した当初、よく横浜駅で迷子になった。

「あれ、西口のあのビルにはどう行けばいいんだっけ」。なにしろ、いつもどこかで工事が行われている。いまなお完成しないスペインの世界文化遺産をたとえに、「日本のサグラダ・ファミリア」と揶揄(やゆ)されていた。

 

(2)▼久しぶりに訪れたら、だいぶスッキリしていた。

ひとまず一段落したようだ。昔の光景を思い出したのは、政治資金規正法の文字を頻繁に目にするようになったからか。1948年の施行以来、不祥事のたびに改正を重ねてきた。本紙「経済教室」で政治学者の重田園江さんが、主なものだけで12回にのぼると書いていた。

 

(3)▼これだけ繰り返し手を入れてもなお、「要修繕」の箇所が目立つのは理解しがたい。

支出に関する言及がほとんどない点など、「特権というほかない状況が野放しにされてきた」と重田さんは断じている。自民党派閥の裏金事件を受けた改正法案は、きのうから与野党の修正協議が始まった。会期末まで残り1カ月もない。

 

(4)▼パーティー券収入の公開基準は10万円か5万円か。

政策活動費をどうするか。値引き交渉ではあるまいし、「間をとって……」などとは考えていないと思うが。妥協の産物、小手先、その場しのぎ。そんな結論なら、この先も不正は後を絶たず、延々と工事が続くに違いない。結果、この国が迷子になるのは勘弁願いたい。