認知症・予備軍1200万人 密着型の介助に限界 ITで外出・買い物支援 市場規模は2000億円(24年5月27日 日本経済新聞電子版)

 

記事(高畑公彦)

 

(1)要点

お年寄りのほぼ3人に1人、1200万人超が認知症とその予備軍になる社会が2050年にやってくる。介護人材は不足し、認知機能が衰えてもできるだけ自力で暮らせる環境が求められる。

患者らを支えるモノやサービスの市場が2000億円に膨らむと予想されるなか、新たな技術や試みの芽が出始めた。

 

 

 

新しい技術やサービスが普及したら…(取材に基づく)

 事故対策

   スマホからイヤホンに音声の交通案内

  「この横断歩道の手前で止まって!」

 買い物支援

   使用上限付きプリペイドカード、現金計算も不要に

 生活用品

   消し忘れ音声機能付きのガスコンロなど

   「左、コンロ、15分間使用しています」

 コミュニケーション

   生成AIも対話相手に

   「この間のゴルフどうだった?」

   「絶好調だったよ」

 

 

 

(2)グループホーム「のんびり家」

「豆腐は使ったから、ホウレンソウの味噌汁にしましょう」

5月上旬、グループホーム「のんびり家」(東京・文京)で70代の女性入居者が職員と昼食の準備を始めていた。女性は認知症で介護が必要だが、食材の有無や保管場所を思い出し、職員に塩加減を提案した。

のんびり家は入居者の自主性を重視する。

ほぼ1日を一緒に過ごすと、職員が密着してつきっきりで介助する他施設では見られない光景を目にした。

 

写真 入居者(左)の意見を聞きながら昼食を作る職員(東京都文京区のグループホーム「のんびり家」)

 

食後は自分で皿を洗い、服も洗濯する。玄関は夜間を除き施錠せず外出を認める。

介助の現実は厳しい。1回の夜勤は16時間に及び、1人で5部屋を巡回し異常がないか確かめる。トイレに行く際も手伝いは欠かせない。ただおむつを着けて寝たきりになれば症状は悪化するばかりだ。

人手不足のなか職員の定着も必要になる。

永辻宇康施設長は「元気でいられる時間を増やしてもらいたい。それが支え手の負担軽減にもつながる」と話す。

 

◆介護人材は不足

 

認知機能が低下しても自力で暮らせるよう支える試みが出始めた。背景には高齢化の進展に伴う認知症患者の増加がある。

 

(3)厚生労働省が5月に公表した将来推計によると、50年の認知症患者は586万人と22年比で32%増える。認知機能が年相応より低下する「軽度認知障害(MCI)」は631万人と同13%増。合計は1217万人と同21%増え、65歳以上の3割が症状を持つ計算だ。健康意識の高まりなどを背景に前回発表の推計から減っているものの高水準が続く。

 

(4)介護人材

 23年度で22万人、40年度は69万人が不足するとされる。支援には新技術が欠かせない。日本総合研究所の紀伊信之リサーチ・コンサルティング部門部長は「50年には日常生活のあちこちに認知症に対応した商品やサービスがあふれているだろう」と話す。

同研究所は25年の認知症の人の生活を支えるモノやサービスの市場規模を778億円と試算する。50年には2000億円に膨らむ可能性があるという。

 

(5)「認知症に対応した商品やサービスのある生活」

そのときの暮らしを紀伊氏らへの取材に基づいて描いた。

午前7時、80歳の男性がベッドで目を覚ました。

認知症だが都内の自宅で一人暮らしをする。朝食は目玉焼き。ガスコンロは火を消し忘れても音声で教えてくれるから安心してつくれる。

食後は買い物だ。移動手段は自動運転の車椅子で、センサーの停止機能を備えており、交通事故に遭う心配もない。

目的地のスーパーに着いた。

野菜売り場に向かったが何を買うはずだったか思い出せない。スマートフォンを取り出して野菜にカメラをかざすと画像が自宅の冷蔵庫内の映像と照合され、足りない野菜が通知された。紳士服売り場にも寄った。表裏を逆に着ても問題ないリバーシブルの服を買うためだ。

帰宅後は新たに開発された認知症薬を服用し、AI(人工知能)を搭載したロボットとおしゃべりをした。同じことを聞いても機嫌を損ねないAIは孤独を癒やす。体調の悪化を伝えれば救急車も呼んでくれる。男性は安心して眠りについた。

 

◆担い手は新興企業

 

(6)こうした技術はスタートアップなどが開発を担う。

 

1)LOOVIC(横浜市)は空間の認知能力が低下しても街を歩けるシステムをつくった。位置情報に基づいてスマホのイヤホンから音声で道案内をし、交通事故に遭う危険が高い場所を避けるよう誘導する。

2)物の買いすぎを防ぐ仕組みをつくったのはKAERU(東京・中央)だ。使うのはプリペイドカードと連動するアプリ。カードに月々の使用上限額を設けて買いすぎを防ぎ、購入履歴を家族や成年後見人ら支援者が確認できるようにしている。

導入した静岡県の菊川市社会福祉協議会の堀川直樹次長は「キャッシュレスのためレジで現金を数える利用者の不安解消につながった」と話す。90歳代の母親が利用する女性も「認知症でも当たり前の生活ができるようになれば」と期待する。

 

(7)世界一の高齢社会とされる日本。患者らを社会全体で支える介護保険制度の持続に加え、人の衰えを肯定し支え手の負担も減らすイノベーションの創出が求められる。

(高畑公彦)

 

■グループホームとは?認知症ケアに特化したサービス内容と他の介護施設との違い  SOMPOケア

https://www.sompocare.com/contents/service/grouphome/

 

◆1.グループホームとは

 

認知症の診断を受けた高齢者が、9人以下という少人数で共同生活をする住居のことです。

認知症対応型共同生活介護と位置づけられ、認知症の方が専門のスタッフのサポートを受けながら生活します。共同生活を送ることで自分らしい自立した日常生活を送ることを目指しています。

グループホームは日本全国に13,977ヶ所(令和2年10月時点)あり、SOMPOケアでは、21ヶ所のグループホームを運営しています。

参照:厚生労働省「令和2年介護サービス施設・事業所調査の概況」

 

グループホームの設備

 

グループホームの居室は原則個室で、入居者の専有スペースになります。また、他のご利用者とともに利用する共有スペースとして、リビングや食堂、台所、浴室などの生活空間があります。
「小規模な施設」

グループホームは、介護付有料老人ホーム(介護付きホーム)や特別養護老人ホームなどに比べ小規模な施設です。

認知症の方のなかには、人の顔を新たに覚えたり新しい環境に慣れたりすることが難しい方もいます。そのため、少人数で生活をすることは他のご利用者、スタッフとも顔なじみになりやすく、認知症の方も安心して暮らすことができるのです。

SOMPOケアでも、認知症の方がスタッフとともに食事の支度をしたり、掃除や洗濯をしたりしながら、穏やかに過ごせるようサポートしています。

 

グループホームで受けられるサービス

 

「認知症になっても料理や洗濯などの家事が全くできないわけではない」

認知症になると、自立した生活が難しくなるのではないかと思われることがあります。しかし、実際には認知症になっても料理や洗濯などの家事が全くできなくなるわけではありません。

グループホームのご利用者は、スタッフのサポートを受けながら、料理や洗濯などの家事をスタッフや他のご利用者と役割分担しながら共に行います。ご利用者のできること、できないことを考慮し、サポートするというケア体制となっています。
「認知症の方のみが対象で日常生活のサポート」
また、グループホームは認知症の方のみを対象とした施設なので、認知症ケアの専門スタッフが常駐しており、ご利用者の日常生活のサポート(入浴や排泄、更衣、食事などの介助やアクティビティなど)や、日々の変化への観察と対応、精神的ケアまで支援します。

グループホームの入居条件

 

以下の通りです。

  •     医師から認知症の診断を受けていること
  •     要支援2~要介護5の認定を受けていること
  •     集団生活を営むことに支障がないこと
  •     施設と同一の市区町村にご利用者の住民票があること

 

「地域密着型なので施設と同一の市区町村に住民票がある人に限定」

グループホームは、認知症の方を対象としているので、入居するには医師から認知症の診断を受けている必要があります。また、グループホームは地域密着型のサービスであるため、施設と同一の市区町村にご利用者の住民票がなければ入居できません。

 

◆2.グループホームのメリット・特徴

 

1)認知症のケアに特化している

 認知症ケアを専門とするスタッフが常駐し、小規模で配慮の行き届いた生活空間で、ご利用者それぞれに合わせた生活を支援します。

基本的な生活動作をご自身で行うことにより、認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。
 認知症だからできないと決めつけたりせず、その方らしく暮らし続けていただくために、ご利用者にできることは任せるというスタンスで運営されているのです。

 

2)住み慣れた地域で過ごせる

 グループホームは原則、同じ地域で暮らす方たちが入居するため、慣れ親しんだ地域で生活できます。そのため、共通の知り合いや話題も見つけやすい環境で生活を送れるのが、グループホームの特徴の一つです。

 認知症の方のなかには、見知らぬ新しい場所で過ごすことで、精神的に不安定になってしまう方もいます。グループホームでは、長年住み慣れた地域で過ごせるので、環境の変化による心身の負担は少なくなるでしょう。

SOMPOケアのグループホームでは、地域のお祭りへの参加や近所の保育園・小学校から子どもを招待するなど地域の交流を大切にしています。

3)プライバシーが守られ、交流もできる

 利用者の居室はほとんどが個室です。そのため、プライバシーが守られた環境で自分の時間を過ごすことができます。また、共有スペースとしてリビングやダイニングもあるため、ご利用者同士の交流はもちろん、ご家族や来訪したご友人との歓談もでき、充実した暮らしを送ることができます。

 

◆3.グループホームのデメリット・注意点

 

1)看護師の配置義務がない

 グループホームには、認知症ケアを専門とするスタッフは常駐していますが、看護師の配置義務はなく、多くの施設では対応できる医療ケアに限りがあります。
 ただし、高齢者向けの施設であるため、ケガや体調の急変などに備えて提携する医療機関を定めています。要介護度が高くなった場合や医療ケアが必要になった場合の対応方法、提携医療機関など、施設の対応がどのようになっているのか、事前に確認しておくと良いでしょう。
 また、ご利用者の高齢化に伴い、看取りに対応するグループホームも増えてきています。まだ数は少ないものの、看護師が在籍していたり、訪問看護ステーションと契約して看護師を確保していたりするグループホームもあります。施設により体制が異なるため、入居前に確認するようにしましょう。

 

2)施設と同じ市区町村に住民票がないと入居できない

 

◆4.グループホームと他の介護施設との違い