相川七瀬さん、赤米に魅せられ大学院で学ぶ 「歌と母親のほか、やりたいことを見つけられた」(24年5月26日 産経新聞オンライン無料版)

100歳時代の歩き方 私の後半戦

 

記事(小川記代子)

写真 修士課程は2年間。「その後のことは決めていない。赤米の2市1町とは関わり続けます」と語る=東京都港区(酒井真大撮影)

 

(1)序

熱いライブを繰り広げるロックシンガーは神道に関心を持ち、赤米に出合い、45歳で大学に進学した。

今春からは大学院で、学びを一層深めている。来年はデビュー30年。「歌という仕事と母親のほかにもう一つ、自分のためにやりたいことを見つけられた」と話す。(聞き手 小川記代子)

 

(2)「民俗学の視点から祭りの継承を研究」

週4日、国学院大学の大学院で、民俗学の視点から祭りの継承を研究しています。

講義はリポートがあり、発表の順番もすぐに回ってくる。

課題がとても多く、図書館に通い、昼食の時間が取れないので弁当持参、寝る時間を削って自宅のリビングで資料を広げています。

長男と同じ年齢くらいの若い同級生でも大変そうです。私もすごくきついけど、まだ大丈夫です。これまでのキャリアで、いろいろなハードルを乗り越えてきましたからね。

 

◆田植えやシンポジウムで交流

 

(3)《赤米を知ったのは平成23年だった》

この年、子供と田植えを経験していました。

その後、コンサートで行った長崎県対馬市で赤米の田んぼを見つけました。

穂が赤くて「赤米神田」と書いてある。もともと神道の祭りに興味があって、田植えをしたばかり。「赤米を祀(まつ)る祭りがあるのか」と生産者に会いに行きました。

 

(4)《対馬の赤米神事は赤米を祀る神事で、1千年以上の歴史があるとされる》

継承者がたった1人と聞き、何とか力になりたいと思いました。

その後、同じ赤米神事伝承がある岡山県総社市と鹿児島県南種子町に足を運び、2市1町と協力体制が生まれました。

赤米の田植えや稲刈り、サミットやシンポジウム。今も変わらず交流が続いています。

 

(5)《赤米を知り、学びを始めた》

神道や祭り、赤米などについて、きちんと学びたかった。

国学院大で科目履修生として勉強しながら、大学受験の準備を始めました。

高校を卒業していなかったので、まず高校卒業程度認定試験(旧大検)からです。

 

写真 赤米の稲刈りにも参加し、長年、地域と交流している=昨年11月、岡山県総社市(相川さん提供)

 

(6)《令和2年、国学院大神道文化学部に合格した》

大学に入り、大学とは自分から獲得しに行かないと何も得られないと痛感しました。

自分で道を切り開き、分からないところは先生に相談する。

高校までとは違う。分からないときは誰かに聞くなど、そのままにしないほうがいい、と大学の同級生とも話しています。

当たり前のことかもしれませんが、大学に入って再認識させられました。

 

(7)《大学では成績優秀で卒業生総代に選ばれた。大学院に進むことは大学入学時から決めていた》

大学院からがスタートだと考えていました。

十数年、赤米神事に関わってきていますし、古いものをどう今に生かし、未来につなげていくのか。ほかの祭りの再構築にも役立つよう、事例を挙げてまとめたいと思っています。そのためにも、大学4年間で知識を一通り得て、やっとここからという感じです。

 

◆かつてないほど詞が書ける

 

(8)《歌手、そして22歳、16歳、11歳の2男1女の子育てと両立させている》

40歳を過ぎ、「このまま仕事と母親だけだったら、50代から自分はどうやって生きていくのか」と考えるようになりました。

歌は子供のときからの夢で、幸い仕事になりました。その上で、大人になった私は神道という、もう一つの好きでやりたいことに走り始めることができました。

 

(9)《大学生活は音楽活動に良い影響を及ぼしているという》

大学の勉強で今まで使ったことのない脳を使っているので、今まで使っていた脳もよく動くんです。

よくひらめき、かつてないほど詞が書けます。

昨年はアルバムを2枚出しました。子育てしていた30代は、今と同様の忙しさでも全然詞が書けませんでした。

 

(10)《後半戦を考える人へのメッセージは「やりたいことをやってみる」だ》

日々、自分の中に湧き上がる「やりたいことの声」に耳を傾ける、無視しないということだと思います。

皆さん、忙しい中で時間を捻出するということを面白がって、自分の行動範囲を広げ、新しい人やものとの出合いを楽しめたら良いですよね。

 

相川七瀬

あいかわ・ななせ 昭和50年、大阪生まれ。平成7年、「夢見る少女じゃいられない」でデビュー。アルバムを多数発表、ライブ活動を精力的に行う。プロ野球横浜DeNAベイスターズの大ファン。8月から全国6都市のライブツアーを予定している。