おひとり様、終活費用の目安 民間事業者、契約時100万円超(24年5月25日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)高齢でひとりで暮らす「おひとり様」は多い。

国立社会保障・人口問題研究所が4月に公表した世帯数の将来推計によれば、2020年は2115万世帯で世帯総数の38%と最も多く、「夫婦のみ」「夫婦と子」などを上回る。50年には2330万世帯で44%に膨らむ。中でも目立つのが65歳以上の単独世帯。20年は738万で総数に占める割合は13%だったが、50年には1084万で21%と初めて2割を超える。

 

 

 

(2)高齢のおひとり様や中高年で「ずっとひとりかも」という人が考えておきたいのは、体力や判断能力が低下したときの備えだ。

心身の機能が低下すると一般的に日常生活が難しくなるほか医療、介護で手続きや支払いが増え、誰かの手助けが必要になりやすい。

 

(3)備えは大きく分けて

 1)掃除や買い物、通院の付き添いなどの生活支援

 2)入院や施設入所の際に支援をする身元保証

 3)葬儀や墓の手配、家財の処分といった死後事務――

の3つだ。

特に身元保証は「保証人となる家族がいないと、入院できないケースもある」(日本総合研究所の沢村香苗研究員)。

しかし日本総研が23年に50歳以上85歳未満の男女に実施した調査で一人暮らしをしている人に万一の際の支援を依頼しているかを聞いたところ、「日常生活に必要なこと」では「具体的に頼んである」と「おおまかに頼んである」が計14%だった。「頼む相手は決めている」「相手がいない・決めていない」は計8割弱を占め、準備は遅れぎみだ。

 

(4)「自治体の情報登録が入院の保証人代わり」(自治体の終活支援サービス)

頼める人がいなければ終活支援サービスの利用が選択肢となる。

窓口となるのは「自治体・社会福祉協議会」や民間のサービスである「高齢者等終身サポート事業者」などだ。

自治体では地域の高齢者向け支援に力を入れるところが増えている。

代表的なのは神奈川県横須賀市だ。低所得のおひとり様向けに低価格で葬儀社と葬儀・納骨の契約をする事業と、かかりつけ医、墓の所在地などの情報を無料で登録する事業を実施する。

「おひとり様の支援がうまくいった事例」と同市福祉専門官の北見万幸氏は1枚のはがきを見せてくれた。

市内に住む90歳の男性からの礼状だ。心不全で病院に運ばれたとき、看護師に「(保証人になる)家族はいない」と伝えたところ入院を断られそうになったという。そこで以前作った市の終活情報の登録証を示したところ「これでいいのよ」と言われて入院ができ、助かったと書かれてあった。

終活登録では病院や警察からの問い合わせに市がこたえる。

横須賀市以外の自治体では、東京都豊島区が21年に「終活あんしんセンター」を設けている。相続や遺言、葬儀などの相談に応じ、情報を提供する。終活情報登録も始めた。実務は社協が担う。

 

(5)「情報登録より進んだサービス」

自治体からの支援や補助を受ける社協では情報登録より進んだサービスを実施するところもある。

足立区社協

1)低所得層向け

同区在住、頼れる親族がいない、住民税非課税などを条件に見守りや入院時の身元保証などをする。

契約時に預託金52万円に年会費、遺言の作成費用(5万~10万円)などを払う。預託金は判断能力の低下などで入院・入所費用の精算ができなくなったときに使う。入院の付き添いや預貯金払い戻しなどのサービスは別料金。1回1000円や1時間1000円といった料金を払う。

2)高所得者向け

高齢者等終身サポート事業者は資金に余裕がある人や高所得者向けだ。契約に基づいて生活支援や身元保証、死後事務などのサービスを提供する。生活支援では買い物の付き添い、墓参りの同行や代行、緊急時のペットの世話をするなど社協に比べきめ細かなニーズに対応することが多い。

 

(6)「契約時に預託金を負担」

契約時に預託金など100万~200万円払うケースが目立つ。例えばシニア総合サポートセンター(東京・港)は約140万円、OAGウェルビーR(東京・千代田)は186万円などだ。両社とも預託金は死後事務に充てるので、生活支援を利用すればその都度料金が発生する。シニア総合は平日昼間で1時間3500円程度、OAGは同5500円だ。

サービスを多く使えば費用がかさむ。

預託金から利用料を賄う事業者もあり、足りなくなれば追加の負担が求められる場合がある。「料金体系が分かりにくい事業者も多い。加入の際はどんなサービスでどんな費用がかかるかをよく確認したい」と沢村氏は話す。

 

(7)「任意後見契約」

司法書士ら専門家と早めに任意後見契約を結ぶのも対策となる。「契約を事前に交わしておけば、判断能力が低下しても任意後見人が様々な支援をする」と司法書士の村山澄江氏は指摘する。

ひとりで暮らせなくなったら家を売って施設に入るなど、契約の内容は自由に決められる。費用は契約時10万~30万円、認知症発症で後見開始時10万~15万円、後見人の報酬が月2万~3万円など。「認知症になる前でも緊急連絡先となったり、駆け付けたりするので入院や入所を断られることはない」(司法書士の勝猛一氏)。

死後の手続きも不安なら、任意後見のほか死後事務委任などをセットで契約するのも手だ。契約時に40万~60万円かかることが多い。

 

 

◆高齢者支援、国がモデル事業

 

記事(土井誠司)

 

(1)高齢のおひとり様の増加を受け、国は今年度に2つのモデル事業を始める。

 1)ひとつは自治体に相談・調整の窓口を設けてコーディネーターを置き、見守りや生活支援など相談に応じる。

 2)もうひとつは自治体が十分な資力のない人向けに身元保証や日常支援、死後事務といった支援をまとめて提供する事業。

いずれも社会福祉協議会に委託できる。

それぞれ豊島区や足立区社協などの取り組みが念頭にあるようだ。参加する自治体を募り、今年夏ごろに開始するとみられる。事業の結果を踏まえ、将来的な制度化を検討する。

(2)国は高齢者等終身サポート事業者向けのガイドラインも作成する。

契約内容や事業者による預託金流用などを巡るトラブルが多いため、契約時の適正な説明や預託金管理の透明化など守るべき項目をまとめる。

 

(3)信託銀行

三菱UFJ信託銀行は昨年10月、シニア総合サポートセンターやきずなの会(名古屋市)など3者と提携。顧客の紹介をするとともに、顧客からの預託金を信託商品として管理する。三井住友信託銀行は19年から「おひとりさま信託」という商品を扱っている。

預入金額は300万円からで、自前で立ち上げたサポート事業者「安心サポート」が、契約者の希望に沿って葬儀・埋葬、家財処分といった死後事務を実行する。

(土井誠司)