オフ おしゃれも生成AI時代(24年5月25日 日本経済新聞電子版)


記事

 

写真 左側に表示された元画像のテイストを踏まえて生成AIがデザイン案を提示する(スクロールインターナショナル)

 

(1)要点

ファッション分野の生産や販売の現場にも生成AI(人工知能)がジワジワと浸透してきた。

商品のデザインや生産工程に必要なコスト、時間を節約できるほか、店頭での接客サービスなどにも活用できるのが特徴。

消費者が自由にデザインした独自商品の生産を個別に受け付けるサービスも登場しつつある。

 

(2)「服作りのデザイナーのアシスタントのような生成AI」

通販大手スクロールの子会社スクロールインターナショナル(東京・品川)が国内のアパレルメーカーなどに販売しているのが中国企業と共同開発した生成AIシステム「ライトチェーン」だ。

 1)デザインの土台となる画像をシステムに取り込むと、

 2)画面上で柄、色、素材を瞬時に変更できる。

 3)さらにAIが取り込んだ画像を通じてデザインのテイストを「クール」「カジュアル」「エレガンス」「シンプル」などと解析しながら独自に学習。

 4)それを踏まえた新たなデザイン案を約10~40秒ほどで自動的に提案してくれる仕組み。

 

(3)「人間がその都度、評価しAIの理解度や精度がさらに高まる」

「提案されたデザイン案の良しあしについて人間がその都度、細かく評価することでAIの理解度や精度がさらに高まる」(音羽裕之社長)

生産工程に欠かせない素材調達やサンプルを作る手間や費用、制作時間が短縮でき、デザインの企画・立案にも大きな助けになる。

今年2月から同システムの販売を始め、すでに60~70社程度に導入が決まっているという。

 

写真 好みのデザインを印刷した牛革製財布(AIVAR)

 

(4)「牛革製財布に好きなデザインをプリントできるシステム「W4U」」

「あなたのブランドを簡単に作れます」。韓国のソフト開発会社AIVAR(エーアイバー、ソウル市)は牛革製財布に好きなデザインをプリントできるシステム「W4U」を開発した。

今年3月から韓国や日本の雑貨メーカーや個人消費者などから注文を受け付けている。「生成AIを使って類似の度合いを判定し、印刷したいデザインが既存ブランドの著作権を侵害することがないか判断できるのが特徴」(キム・ボミン社長)

デザインを画面上で瞬時に変更できるほか、3次元画像で印刷した状態を確認することも可能。

個人向けとして、1個単位でもデザインと生産の注文を受け付ける。送料、関税などを除いた中心価格帯は3500円程度。「世界で自分しか持っていない財布が手軽に作れる」(韓国の消費者)と話題を集める。日本市場では年間5万個以上の販売を目指すという。

 

写真 オンラインストアのAIモデル(三越伊勢丹)

 

(5)「モデルを使ったリアルな撮影よりも多様な着用パターンを手軽に再現」

通販大手ニッセン(京都市)、BIPROGY(ビプロジー、旧日本ユニシス)、ソフト開発会社メタクロシス(東京・渋谷)は生成AIを使い、衣料の試着パターン画像を自動生成する実験に取り組む。

メタクロシスが開発したソフトとニッセンが所有するデータを活用し、AIが様々なコーディネートを試す画像を自動生成。モデルを使ったリアルな撮影に比べてサンプル調達などの手間が省け、より多様な着用パターンを手軽に再現できるという。

 

(6)「AIモデルなら肖像権の問題が無く多様なコーディネートの紹介も可能」

一方、オンラインストアのモデルやアバターによる店頭での接客サービスにAIを活用する試みも広がる。

三越伊勢丹は自社のオンラインストア「リ・スタイル」「プライムガーデン」「クローバーショップ」で独自に生成したAIモデルを活用している。

人間のモデルを使うと肖像権の関係で使用期間が限定されるが、AIモデルを使えばその心配がなくなり、より多様なコーディネートの紹介も可能。撮影の手間やコストも削減できる。顧客にとっても商品だけの表示よりイメージがつかみやすいようだ。

 

写真 接客も担当するAIアバター(ソラリアプラザ)

 

(7)「AIアバターが店頭で多数の言語に対応しながら接客を任せる」

西日本鉄道は今年1月から3月まで福岡市天神の自社商業施設「ソラリアプラザ」でAIアバターに店頭での接客を任せる実験を実施した。

モニター上のAIアバターがお薦めの商品などを紹介する仕組み。円安で外国人買い物客が増えているが「日本語、英語、韓国語など多言語で対応できるので便利」と反応はまずまず。人手不足の解消にも役立つという。

このほかアパレル大手ワールドグループのオープンファッション(東京・港)もAIがチャット機能で商品の説明文を作ったり、デザイン案の参考になるイメージ画像を生成したりするサービスに取り組む。

服や雑貨を作ったり、買ったり、おしゃれや着こなしを楽しんだりするため、生成AIは便利で欠かせない技術として社会に定着し始めているようだ。

 

(編集委員 小林明)