通信不要AI、主戦場に 端末上で素早く作動 マイクロソフト、アップルに対抗(24年5月22日 日本経済新聞電子版)

 

 

写真 マイクロソフトはパソコンにAI機能の搭載を進める

 

記事【シアトル=渡辺直樹】

 

(1)要点「パソコンやiPadやiPhoneの上でAIソフトを動かす 通信環境は不要」

米マイクロソフトは20日、生成AI(人工知能)の動作に最適化したパソコンを開発したと発表した。

データ処理が必要なAIを端末上で素早く動かす「エッジAI(きょうのことば)」で先駆ける。

米アップルもiPadやiPhoneにAIソフトの搭載を進める。パソコンとモバイルに続く両社の情報端末の新たな戦いはAIに舞台が移った。

 

 

(2)「ウィンドウズ95から約30年がたち、信じられないような新しいAIの時代の中で真の革新に近づいている」。マイクロソフトのサティア・ナデラ最高経営責任者(CEO)は20日に米シアトルの本社で開いたイベント冒頭でこう切り出した。

ウィンドウズ95は世界で爆発的にヒットし、IT(情報技術)ブームの火付け役となった。新型パソコンはそれ以来となる革新的な製品と位置付けた。

 

(3)マイクロソフトが発表したのは高速で動く独自のAI機能を備えたパソコンだ。

40カ国以上の言語を画面上でリアルタイムで翻訳でき、ネットや文書の閲覧履歴をAIで瞬時に探すこともできる。

手書きの絵からイラストを自動作成する機能も備えた。翻訳機能はインターネットがつながらなくても動く。

 

ジョブズ氏意識

 

(4)マイクロソフトでAI製品の開発トップを務めるムスタファ・スレイマン氏は「AI時代に合わせてパソコンを再発明する」とX(旧ツイッター)に投稿した。

iPhoneで携帯電話を「再定義」したと訴えたアップル共同創業者のスティーブ・ジョブズ氏を意識した発言だ。

 

(5)「通信環境が不要に ただし用途は限定される」

対話型AIの「Chat(チャット)GPT」はネットを通じてデータをやりとりし、処理に数秒かかる。通信環境が悪いと利用もできない。

新製品はAIをパソコン内の高性能半導体を使って動かす「エッジAI」の技術を採用した。AIを使う用途を絞ることで通信しなくてもAI機能を扱えるようにした。

 

(6)半導体

エッジAIの性能を左右するのは半導体だ。マイクロソフトは革新的な製品の投入に合わせ、長年のパートナー戦略も転換した。

マイクロソフトは中央演算処理装置(CPU)に米インテルではなく、スマートフォンに強い米クアルコムの技術を採用した。省エネ性能に強い英アームの設計を使った。

搭載する半導体はCPUだけではない。グラフィックを処理する画像処理半導体(GPU)に加え、生成AIに特化した半導体も組み合わせた。消費電力が少なく、AIの処理速度に優れる。

 

(7)

マイクロソフトはアップルへの強烈な対抗意識をむき出しにした。発表会では新しいAIパソコンがアップルの自社製半導体「M3」を搭載したマックブックより58%性能が高いと強調した。

パソコン黎明(れいめい)期以来、ウィンドウズとマックは情報端末の盟主の座をめぐり競争を繰り広げてきた。

ビジネス向けのパソコンではウィンドウズ95でマイクロソフトが、インテルの半導体や業務ソフトを組み合わせて覇権を握った。

しかし1998年にウィンドウズのソフト抱き合わせの手法により米司法省などに独禁法違反で訴えられた。2000年代にネットや携帯電話が普及する時代に出遅れた。07年にアップルがiPhoneを発売し、基本ソフト(OS)「アンドロイド」を開発した米グーグルとともにスマートフォン時代を先導した。

 

時価総額トップ

 

(8)マイクロソフトが反攻に出るきっかけとなったのが19年の米オープンAIとの提携だ。

生成AIの拡大をにらみマイクロソフトは累計1兆円超を投資して提携し、22年11月のチャットGPT公開以降、同社の技術をウィンドウズや業務ソフトに次々組み込んできた。

生成AIブームのけん引役となったマイクロソフトは時価総額で3兆ドルを突破し、アップルを抜いて世界首位となった。さらにハードとAIの融合も進め、生成AI戦略で出遅れるアップルを突き放そうとしている。

アップルも負けじと生成AI分野で挽回を図っている。

AI処理を高速化した自社半導体開発を進めている。最新のチップを開発し、5月にはiPadに組み込むと発表した。6月には最新技術を発表するイベントを開き、生成AIとiPhoneの融合について発表するとみられている。