神田財務官「日本の競争力低下に危機感」 G7財務相会議、中国過剰生産を議論へ(24年5月22日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

写真 インタビューに答える神田真人財務官(財務省)

 

(1)要点

財務省の神田真人財務官が23日にイタリア・ストレーザで始まる主要7カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議を前に日本経済新聞の取材に応じた。

会議の主要テーマであるウクライナの復興財源は「侵略者が支払うべきだ」としてロシアの負担を訴えた。

円安を巡っては日本経済の競争力低下に危機感を表明した。

 

(2)

バイデン米政権は中国製の電気自動車(EV)や半導体への制裁関税を引き上げる方針を打ち出し、中国側が反発している。

神田氏は「地政学的要因による世界経済の分断リスクは問題だ」と言明した。会議では背景にある中国の過剰生産を巡り、議論が交わされるとの見通しを示した。

日本は多国間主義や、自由で開かれたルールに基づく貿易・投資の促進といった原則を尊重している。供給網(サプライチェーン)の多様化を進めるとともに「公平な競争条件の確保」が必要だとの考えも強調した。

 

(3)

今回の会議では凍結しているロシアの海外資産の運用収益をウクライナの復興支援に使う案も提起される可能性がある。

神田氏は「国際法違反を起こしたロシアに責任を取らせなければならない。今後の侵略に対する抑止力にもなり得る」と語った。手法については、国際法に依拠することが前提だとして「その観点から議論を続けている」と説明した。

 

 

(4)「円安の背景には、日米金利差や日本の国際競争力の低下」

足元で進む円安の背景には、日米金利差のほかに日本の国際競争力の低下も指摘される。

「短期的な市場動向の要因ではないが、競争力低下には強い危機感がある」と力説した。

 

(5)「国際競争力の復活策」

1)「改革を通じて潜在成長力を上げなくてはならない」とも述べ、

2)賃上げや設備投資などの前向きな動きを加速させる必要があると訴えた。

3)労働生産性の向上や成長分野への民間投資促進には「労働市場の流動化や市場機能をゆがめるモラルハザードの縮減、企業統治改革などを強化する必要がある」と話した。

 

(6)「介入の有無にはノーコメント」

市場では政府と日銀が4月29日と5月2日に円買い・ドル売りの為替介入を実施したとの観測がある。介入の有無に関しては「一切コメントしない」と言及を避けた。

 

(7)「ポピュリズムの伸長や社会の不安定化を防ぐために深刻な格差拡大は是正すべき」

「グローバルサウス」と呼ばれる新興・途上国との連携

20カ国・地域(G20)の2024年の議長国であるブラジルは富裕層への課税強化を主張する。

神田氏は「格差の拡大は深刻であり、ポピュリズムの伸長や社会の不安定化につながるため是正すべきだ」と指摘した。

「実効性の確保には国際的な議論が欠かせない」として、資産の把握を課題にあげた。

 

(8)スリランカの債務問題

日本が共同議長として債権国会合を立ち上げ、23年11月に基本合意に至った。

神田氏は債務再編に向けて「いま詳細を規定する覚書(MOU)の署名への最終段階にあり、調整を進めている」と明かした。