春秋(24年5月21日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)記者が北海道に赴任していたのは四半世紀も前のこと。

安室奈美恵さんの歌がはやっていた。過日、当時の同僚が居酒屋に集まり、久しぶりに旧交を温めた。「まさかあの銀行が経営破綻するとはね……」。かつての学生アルバイトさんも加わり、昔話で盛り上がった。

 

(2)▼農業の現場も取材した。

クミカンという言葉をご存じか。組合員勘定と呼ばれる道内の農協独特の融資制度だ。農家が秋の収穫高を担保に運転資金を工面する仕組み。でも、収入が予想を下回ると債務が膨らんでしまう。余談ではあるが、制度の課題を指摘した同僚は仕事熱心で午前様が続き、配偶者に家を閉め出された。

 

(3)▼農林中央金庫が巨額の資本増強を検討、と本紙が報じた。

農林水産事業者の資金を運用しているのだが、米金利高に伴い外債などの運用収支が悪化。赤字になる見通しという。「農家のためにならないのならいらない」。過去に、農林中金不要論を唱えた自民党議員もいた。関係者にとって思い出したくないセリフだろう。

 

(4)▼十勝地方の肉牛農家を取材した記憶がよみがえった。

クミカンを利用していたが、輸入自由化の影響で返済不能に。農協は内部留保で損失を処理。当時70代の経営者は、責任をとる形で廃業した。農林中金の運用責任者は、選ばれし者という印象もある。汗みずくで働く人々は今回の報道をどう受け止めたのか。気になる。