米雇用支える「最大投資家」日本 州との連携、政権交代リスクの「盾」に(24年5月20日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)米国は世界で最多の投資を集めている。人口増と技術革新が強みだ。

その陰では各州知事が奔走し、企業支援制度を設けて各国の投資をたぐり寄せている。

最大の投資家になったのは日本。

各地での日本企業の貢献は、仮にトランプ前米大統領が11月の大統領選で勝利しても、理不尽な要求を防ぐ「盾」となり得る。

 

◆直接投資(direct investment) ウィキペディア

企業が株式取得、工場を建設し事業を行うことを目的として投資することである。 配当や金利といったインカム・ゲイン、売却益といったキャピタル・ゲインを得ることを目的とした投資(間接投資や証券投資)に対する概念である。

(以上)

 

 

 

(2)「南部ノースカロライナ州知事」

岸田文雄首相は4月上旬、首都ワシントンでの日米首脳会談後、南部ノースカロライナ州に向かった。

ロイ・クーパー知事が「歴史的な訪問」と述べ、公邸に首相夫妻を迎えた。クーパー氏は日本企業誘致に最も尽力してきた知事という事実は意外に知られていない。

 

トヨタ向け特別課程 人材育成後押し

 

(3)2017年12月に日本を極秘で訪問し、トヨタ自動車幹部に工場誘致を直談判した。この案件は南部アラバマ州に競り負けたが、その後もトヨタ側と接触を重ね、電気自動車(EV)向け電池工場誘致に成功した。

課題の人材確保にむけ「卒業後すぐにトヨタの工場で働けるようにコミュニティーカレッジ(公立2年制大学)と高校に特別の課程を用意した」という熱の入れようだった。

 

 

 

(4)「ノースカロライナ州」

首相が訪問中に富士フイルムが医薬品製造受託で追加投資を発表した。クーパー氏は昨秋の訪日時に投資誘致で「日本企業に集中している」と言及した。

ラーム・エマニュエル駐日米大使は「(クーパー氏が)首相に立ち寄ってもらおうと最初に電話してきた」と明かす。

 

(5)「中西部カンザス州 誘致に託児施設や道路の建設、電力まで提供した」

パナソニックホールディングスは22年秋、40億ドルを投じ、中西部カンザス州にEV用電池の新工場建設を決めた。人口6000人余りの小都市に4000人の新規雇用を生む「単独としては州史上最大の案件」と、ローラ・ケリー知事は話す。

投資誘致のための補助金という「前例のない支援策を州議会で通すため共和党、民主党の議員が迅速にほぼ徹夜で議論した」という。

託児施設や道路の建設、電力供給。企業側が求めた投資環境の実現に尽力した。

 

(6)

昨年から今年にかけ、全米50州のうち10以上の州知事が来日し、多くの企業を訪れた。

日本は英国やカナダを抜いて19年に世界最大の対米投資国になった。特に製造業における米国での雇用創出数は日本が最大だ。

(丸紅経済研究所長の今村卓氏)

 「フリンジベネフィット(賃金以外の便益)を含めると日系企業は質の高い雇用をつくっている」と指摘する。

◆フリンジベネフィット 国税庁ホームページ参考

職場に近社宅、私的利用で来る車両、無償駐車場、社員用食堂施設、託児所、制服貸与や洗濯代、通勤送迎用バス等々。

(以上)

 

(7)「米の同盟国や友好国とのサプライチェーン(供給網)強化も追い風」

米中のハイテク摩擦で、日本など同盟国や友好国とサプライチェーン(供給網)を強化する動きも追い風だ。

中西部ミネソタ州のティム・ワルツ知事は「日本企業を歓迎する。中国企業はお断りだ!」と明言する。

 

(8)「米市場は最大で人口も増加する「低リスク・中リターン」の市場」

日本企業にとっての対米投資の利点は何か。

経団連アメリカ委員長を務めるNTTの澤田純会長は「市場が世界で一番大きい。さらに移民で人口が増え、(市場が)どんどん伸びている」と目を細める。

昨年10月に来日した東部ニュージャージー州のフィル・マーフィー知事からデータセンター投資の陳情を受けたという。経済同友会でグローバル推進委員長を務める茂木修キッコーマン専務執行役員は「低リスク・中リターン」と米市場の重要さを強調する。

 

(9)「全世界の直接投資残高の約4分の1は米国に集中」

ATカーニーが4月に発表した海外直接投資信頼感指数では、米国は12年連続で首位だった。国連貿易開発会議(UNCTAD)によると、全世界の直接投資残高の約4分の1は米国に集中する。その米国では、日本人が想像する以上に日本企業が大きな位置を占める。

 

日系が96万人雇用 中西部・南部で存在感

 

(10)「日系企業の人口1万人当たり雇用者数は、ハワイ、ケンタッキー、インディアナ、テネシー、オハイオ、イリノイ、アラバマの各州が多い」

米商務省の21年のデータによると、中西部や南部を中心に11州で日系企業の雇用者数が外国企業でトップだった。約96万人の日系企業の雇用者数の内訳をみれば、カリフォルニア州(11万2800人)やテキサス州(7万5900人)と人口が多い州が上位を占める。

ただ、人口1万人あたりの雇用者数をみた地図の景色は違う。ハワイ、ケンタッキー、インディアナ、テネシー、オハイオ、イリノイ、アラバマの各州が多い。中西部や南東部で日系企業の存在感が大きい。州知事が民主党か共和党かは関係ない。「あとは世論が課題」と茂木氏は語る。日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収を巡っては、バイデン米大統領が反対するなか、地元の共和党関係者からは歓迎の声が出た。

 

(11)「アラバマ、インディアナ、オハイオなど重要州が日系企業で潤えばトラにも言ってくれる」

(米保守系シンクタンク、ハドソン研究所ジャパンチェアー副部長のウィリアム・チョウ氏)

アラバマ、インディアナ、オハイオなど心臓部に位置する重要州は「日本企業の関与で大きな恩恵を受けている」と指摘する。州知事と関係が良好ならば「知事がバイデン氏やトランプ氏に『日本企業の投資で地元は潤っている』と伝えてくれる」と話す。