東電系や東ガス、洋上風力の浮体設備を量産 現場近くで組み立て 年30基程度、普及に弾み(24年5月20日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)要点

東京電力ホールディングス(HD)や東京ガスが浮体式の洋上風力発電設備について高効率の量産技術を確立した。

風車を支える基幹設備の浮体を複数の部材に分けて組み立て建造を容易にした。造船所など1カ所で建造する従来の方式に比べて生産効率が高まり、年30基程度を量産できる。日本で需要が大きい浮体式の導入に弾みがつく。

 

 

 

(2)洋上風力は風車を支える支柱を海底に直接固定する着床式と、浮体を使い風車を浮かべる浮体式がある。

遠浅の海域が少ない日本では浮体式の潜在需要が大きく、日本近海では着床式の約3倍となる4.2億キロワットの導入が可能との試算もある。

ただ、浮体式はコストやメンテナンスで着床式に劣るなど技術的な課題が残っている。

 

(3)浮体式は波や強風を受けても倒れないように浮体で風車を支える。

浮体は幅だけで最大100メートルに達する。

現在は造船所や橋梁工場でしか製造できず、最も大きな浮体は建造できるドックのある造船所が国内に数カ所しかない。1カ所の造船所だけで建造する場合、船の建造を一切しない場合でも年3~7基程度が限界とされる。

こうした中で政府は浮体式の量産技術の開発などを国費で補助してきた。国の補助対象に選ばれたのが、東電子会社の東電リニューアブルパワー(RP)や東ガスだ。両社は共に2023年度までに工法を確立した。

 

(4)東電RPの工法は数メートル四方の鋼板を多角形につなぎ、積み上げて柱状の浮体にする。巨大な鋼板を使わないため、各地の鉄工所などで作業を分散でき、洋上風力近くの港などで組み立てられる。

造船所など1カ所で建造する場合、1基あたり4カ月程度の時間がかかっていた。東電RPの工法では少なくとも年30基程度を量産できる。

 

(5)浮体は波の衝撃などを逃がしやすいよう円形になることが多い。ただ鋼板の加工に特殊なプレス機を使うために造れる場所が限られてしまう。

 

東電

 浮体の内部を船の船底のように補強材で固めて強度を保つ構造を開発。多角形でも波に耐えるようにした。

柱状で浮体の横幅も30メートル程度で済む。設置する港のそばで組み立てたり造船ドックの隅で船と同時に建造できたりする。鉄工所などで部品を造れ、調達や建造、運搬にかかる費用も従来の浮体より2割落とせるという。

 

東ガス

 年間20~30基を量産できる技術を確立した。浮体の半分ほどを潜水させた三角形状の浮体で風車を浮かせる。支柱などの構成部品は複数のパーツに分け、別々の鉄工所などに発注できるよう設計した。港の近くで組み上げて完成させる。

 

(6)「将来の導入目標はまだ検討段階」

浮体式は長崎県五島市や北九州市、福島県の沖合で小規模な設備を動かした実績がある。国は24年度から商用化を見据えて、2カ所程度の海域で実証事業を始める。

5月にも事業者を選ぶ方針で、東電や東ガスのほか、浮体式を開発する発電最大手のJERAや日立造船など6つの陣営が有力な候補とみられている。

浮体式は26年以降に中規模な発電所が五島市沖で稼働する予定だが、数十基の浮体を使う大規模な発電所の計画はまだない。国は着床式を含めて洋上風力全体で40年に3000万~4500万キロワットの発電所の開発を目指しているが、浮体式については将来の導入目標をまだ検討している段階だ。

 

(7)浮体式の洋上風力を巡っては、海外で17年に英スコットランド沖で世界初の商用発電所が完成し、巨大な風車を数十基浮かべる計画も動き出す。

英国では30年に500万キロワット、米国では35年に1500万キロワットの導入を計画する。

中韓でも総出力が数十万キロワットの巨大発電所の開発が計画されている。

欧州は海上油田など海洋構造物の製造が盛んだ。浮体の量産にも使える設備を備えた港が各地にある。造船産業の蓄積のある中国や韓国は国内にそれぞれ巨大な造船所のドックを数多く抱え、近隣への輸出も視野に産業育成を急いでいる。

日本の産業界は40年までに洋上風力の発電設備などで国内調達比率を60%にする目標を掲げる。

 

風車の製造

 三菱重工業などの撤退で国内に知見がない。海外勢と競える産業基盤をつくるため、浮体の量産化を急ぐ。