定額減税、仕組みを把握 自宅売却や退職金で返金も(24年5月18日 日本経済新聞電子版)

 

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政府が物価高対策として掲げた「定額減税」が始まる。

一定額の所得税と住民税の負担を減らす制度で、会社員なら6月支給の給与から手取りが増える。ただし所得税では、2024年中に退職金を受け取ったり自宅を売却したりして多額の収入を得ると、減税分を返金しなければならない場合もある。仕組みを理解しておくことが大切だ。

 

 

 

今回の減税を受けられるのは、合計所得金額が1805万円(給与年収では2000万円)以下の人。所得税は2024年分、住民税は23年分で判断する。

減税される金額は、本人や扶養親族1人につき、所得税で3万円、住民税で1万円だ。本人に扶養親族がいれば、家族の減税分をまとめて受ける仕組み。

 

扶養親族は生計が一緒で、合計所得金額が48万円(給与年収では103万円)以下が要件となる。

 

会社員の場合、6月以降に給与から天引きする所得税や住民税を減らすことで減税する。ただし、所得税と住民税で天引き額の減らし方が異なる。所得税の場合、必要な減税額に達するまで、年内の毎月の給与やボーナスの天引き額を減らす。一方、住民税は6月分の給与からは徴収されない。その後、7月から25年5月までは、減税分を差し引いた後の年間の税額をおおむね均等にならした額が天引きされる。

 

事例

会社員の夫が、妻と子2人を扶養する4人家族のケース

減税額は妻と子の分が合算されるため、所得税で合計12万円、住民税で同4万円となる。夫の年収は23年も24年も600万円程度(年2回計90万円のボーナスを含む)を想定。毎月の天引き額は、社会保険料を引いた後の給与の金額や、控除対象となる扶養親族の数で決まる。このケースでは、所得税が毎月約1万円、ボーナスから約3万円、住民税が毎月約2万円天引きされる。

定額減税が始まる6月の給与では、天引きされる所得税1万円と住民税2万円がいずれも減税対象だ。所得税の減税は、合計が12万円に達する冬のボーナス(天引き3万円のうち2万円)までが減税対象となる。住民税では「もともとボーナスからは徴収されない」(税理士の藤曲武美氏)。減税がない場合に比べ、端数を処理する7月は1000円、8月から25年5月までは月1900円、天引きされる住民税が減る。

 

定額減税は注意点もある。所得税ではいったん減税を受けても、年内に所得金額や家族構成が変われば減税分を返金するケースがある。

所得税の場合、対象となるかなどを「今年の所得金額で最終的に判断する」(藤曲氏)からだ。

 

例えば本人の所得が要件を超える場合。要件となる所得には、退職金の受け取りや自宅の売却による所得も含まれる。上場株式の売却益による所得も、申告分離課税を選べば含まれる。所得が1805万円超になると定額減税の対象者ではなくなるため、「確定申告により減税分を精算する必要がある」(国税庁)。扶養家族分の減税額も含めて返金する(減税分を戻す)ことになる。

配偶者などの所得金額が、扶養を外れる年48万円超となる場合も、扶養していた人が受けた減税分を返金する。例えば「妻のパート収入や子のアルバイト収入が年103万円を超える場合は、返金する」(辻・本郷税理士法人の浅野恵理税理士)。一方で、扶養を外れた配偶者などは「年末調整や確定申告で、自分の分の減税を受ける」(藤曲氏)。

 

結婚や離婚など家族構成が変わる時も所得税の減税額は変わる。扶養家族は住民税では23年末、所得税では24年末時点で判断する。

 

所得税額や住民税額から減税額を引ききれない場合、自治体から給付金が支給される。自営業者の場合、確定申告などで所得税の減税分を調整する。

(後藤直久)