Foresight(24年5月18日 日本経済新聞電子版)
◆バイバー氏の意見
(2)「2024年内の利下げは1回、経済情勢がFRBの予想通りに減速したとしても2回と考える」
「堅調な経済が想定よりも長期化すれば、大統領選前後の金融緩和は難しい」
(3)「10年債利回りで4%台半ばという米国債は、長期的な観点では実質利回りは非常に高い水準にある」
(5)「投資妙味があるのは、ローン担保証券(CLO)やトリプルA格の商業用不動産ローン担保証券(CMBS)だ。最上位の格付けのものについては、他のリスク資産に比べて非常に魅力的な資産に見える。」
◆マイケル氏の意見
(1)「利下げのタイミングは9月と12月の2回と予想している。最終的な政策金利は3.75~4%程度になるだろう」
「4月のCPI上昇率が3%を超える水準にとどまっているのは、数年前の経済状況がCPIのデータに反映されるタイムラグためだ。CPIの大部分におけるインフレ圧力はほぼ払拭され、家賃と自動車保険に限られている」
「FRBは望ましくない金融引き締め効果を回避するためにも、予防的な利下げを実施するとみる。」
(2)「中立金利にターム(期間)プレミアムを加えたものが、10年債の水準になる。期間プレミアムの水準は過去の経験上、0.75~1.25%程度となる。長期金利の最終的な水準は5%前後になるのではないか」
(4)「ソフトランディングのシナリオが崩れる可能性は、FRBが非常に高い金利水準を長く維持しすぎて市場や経済が落ちてしまう場合か、もしくは早く利下げをしすぎて次のインフレを引き起こしてしまう場合だろう」
「インフレ再燃が最も怖い。セッションなら、まだ利下げ余地がある。インフレの再燃では、より金融政策を引き締めなければならない。経済全体や金融市場に与えるダメージがより大きくなるだろう」
記事
◆米金融政策・市場の見通しは 大統領選前、利下げ難しく(PGIMフィクスト・インカム)ジョン・バイバー氏
(1)序
米金融政策を巡り市場が揺れている。
米大手運用会社の債券運用トップは米利下げの行方や今後の市場をどうみているのか。
PGIMフィクスト・インカムでプレジデント兼最高経営責任者(CEO)のジョン・バイバー氏とJPモルガン・アセット・マネジメントでグローバル債券運用部門統括責任者のボブ・マイケル氏に話を聞いた。(聞き手は佐伯遼)
(2)――米連邦準備理事会(FRB)の政策についてどうみていますか。
「4月の米消費者物価指数(CPI)の結果をみると、7月利下げの可能性は低くなった。一方でパウエル議長の最近の発言を考えると、データ次第では9月にも利下げに踏み切る可能性は否定できない」
「2024年内の利下げは1回、経済情勢がFRBの予想通りに減速したとしても2回と考える。FRBは良好なインフレ指標が継続することを望むと述べており、今後のCPIの結果次第では年内の利下げ回数が少なくなる可能性もある」
「利下げ開始時期が遅れるほど、11月の米大統領選挙が近づく。FRBは過去にも大統領選に近い時期であっても政策変更に踏み切っているが、それは疑う余地なく政策変更が必要な状況だったからだ。堅調な経済が想定よりも長期化すれば、大統領選前後に金融緩和を始めることはより難しくなるだろう」
(3)――10年債利回りで4%台半ばという米国債の水準に投資妙味はありますか。
「短期的な戦術の観点からは、想定するレンジの下限はおよそ3.8%、上限は5%で、4%台半ばはほぼ中心に位置している。一方で長期的な観点では実質利回りは非常に高い水準にある。完璧なエントリーポイントではないかもしれないが、我々は債券市場に対して非常に前向きな見方をしている」
(4)――日銀のマイナス金利解除はどうみていますか。
「政策的に前向きだと判断している。投資家にも貯蓄を持つ家計にも金利上昇は重要だからだ。日本の国債利回りが上がることで魅力が増していくことになる。まだグローバルファンドにおいて日本国債に積極的に投資をしているわけではないが、金利が上がるにつれて投資を検討することになる」
――どの金利水準になれば投資を検討できますか。
「他の金利商品との比較になるので絶対水準で語るのは難しい」
(5)――どの資産やセクターに投資妙味があるとみていますか。
「証券化商品に投資妙味がある。特にローン担保証券(CLO)やトリプルA格の商業用不動産ローン担保証券(CMBS)だ。
商業用不動産への懸念が浮上しているのは承知しているが、それはオフィス部門の問題だ。
最上位の格付けのものについては、他のリスク資産に比べて非常に魅力的な資産に見える。一方でスプレッド(上乗せ金利)が拡大しつつあるという事実も認識し、リスクに備える必要もあるだろう」
John Vibert クレディ・スイスや米ブラックロックなど欧米の金融機関で証券化商品など金利商品の運用担当者を経て2014年PGIMフィクスト・インカム入社。証券化商品の責任者などを担当した後、2024年現職。1993年コーネル大学卒。
◆インフレ再燃、最もリスク JPモルガン・アセット・マネジメント ボブ・マイケル氏
(1)――FRBの利下げについてどうみますか。
「利下げのタイミングは9月と12月の2回と予想している。その後も利下げを続けて今回のサイクルで計1.5%金利を引き下げ、最終的な政策金利は3.75~4%程度になるだろう」
「4月のCPI上昇率が3%を超える水準にとどまっているのは、実体経済のインフレ圧力ではなく、数年前に優勢だった経済状況がCPIのデータに反映されるまでに時間を要しているためだ。CPIの大部分におけるインフレ圧力はほぼ払拭され、家賃と自動車保険に限られている」
「賃金と物価の動向を踏まえると、インフレは徐々に正常化しつつある。今後政策金利が変わらなくても、金融政策は実体経済に対して引き締め効果をもたらすだろう。FRBは望ましくない金融引き締め効果を回避するためにも、予防的な利下げを実施するとみる。場合によっては労働市場の減速に対応するために、より大胆な緩和を開始する可能性もある」
「米国の中立金利は上昇しているとみている。FRBがドットチャートで公表を始めた2012年当時は4.25%だったが、今は中央値で2.6%まで下がってきた。我々はその中間で、3.5~4%程度が今後の中立金利になるのではないかと思っている」
(2)――長期金利にも上昇余地がありますか。
「中立金利にターム(期間)プレミアムを加えたものが、10年債の水準になる。期間プレミアムの水準は過去の経験上、0.75~1.25%程度となる。長期金利の最終的な水準は5%前後になるのではないか」
(3)――日銀はマイナス金利政策を解除しました。日本国債に投資妙味は出てきましたか。
「他の中央銀行は市場が当初予想していたよりもはるかに高い水準まで政策金利を引き上げたのに対し、日銀はようやくキャッチアップを始めた段階だ。我々が本格的に資金を動かすためには、まだある程度の時間が必要になるだろう」
(4)――今後のリスクは。
「最大のリスクは政策の失敗だ。我々のメインシナリオはソフトランディングだが、シナリオが崩れる可能性としてはFRBが非常に高い金利水準を長く維持しすぎて市場や経済が落ちてしまう場合か、もしくは早く利下げをしすぎて次のインフレを引き起こしてしまう場合だろう」
「インフレ再燃が最も怖い。もし経済がリセッションに陥った場合でも、FRBには利下げ余地がある。金利を急速に引き下げることでマクロ経済全体を安定させることが可能だ。一方でインフレの再燃という形では、より金融政策を引き締めなければならない。経済全体や金融市場に与えるダメージがより大きくなるだろう」
Bob Michele ブラックロックやシュローダー・インベストメント・マネジメントなどで債券運用に従事した後、08年JPモルガン・アセット・マネジメント入社。23年9月には米国債券アナリスト協会が選ぶ「債券の殿堂」に選出された。