社説 企業は好業績の持続へ果敢な先行投資を(24年5月16日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)上場企業の収益が伸び続けている。輸出企業を中心に円安の追い風や値上げの浸透で稼ぐ力が高まっている。

企業に求められるのは持続的な成長だ。世界経済は不確実さが増すが、先行投資の手綱を緩めてはならない。

 

(2)東証プライム上場企業の2024年3月期決算を本紙が集計したところ、全産業(金融含む約1070社)の純利益は前の期比18%増えた。3期連続の最高益で、1%増益の前の期から再加速した。

業種別

けん引役は自動車だ。純利益額の合計で商社を抜き全産業の2割弱を稼いだ。

トヨタ自動車は5兆円近い純利益をあげた。円安に加え、現地で販価が上がった。電気自動車(EV)が減速感を強める中、強みとするハイブリッド車(HV)で米欧市場の需要をつかんでいる。

コマツや味の素も海外での値上げが奏功した。大事なのは単にコスト高を転嫁する発想ではない点だ。製品やサービスの価値を戦略的に高めてこそ支持を得られる。

非製造業

インバウンド(訪日客)拡大の恩恵が大きい。空運や鉄道の収益を押し上げ、オリエンタルランドも訪日客比率が上がっている。

 

ただ内需は消費の二極化が浮き彫りになった。百貨店など高額消費は堅調でも、実質所得の低下が続く中で消費者の財布のひもは固い。コストを販価に十分反映できない例も目につく。

懸念すべきは、中国市場の需要減や競争激化が影を落とし始めたことだ。EV関連や電子部品、素材の一部が失速している。ビジネスの巧拙によって差が出る局面といえ入念に戦略を練るときだ。

 

現時点の集計で25年3月期は全産業の純利益で前期比4%減益となる見通しだ。世界経済が不透明なうえ、円相場を1ドル=140~145円で想定する企業が多いのも減益予想になっている要因だ。

しかし企業にとって重要なのは増益基調を途切らせず、持続的に成長していく経営だ。

 

果敢な設備投資や研究開発、何より人への投資を怠れば、企業は衰えるばかりだ。M&A(合併・買収)も選択肢だ。そうした戦略を踏まえても資本を持て余すなら自社株買いを考えるべきだろう。

将来を見据えた先行投資を緩めてはいけない。製品やサービスの価値を高め、稼ぐ力を上げてこそ多様な利害関係者に応えられる。そうした好循環を生み出す先に持続した企業価値の向上がある。