(3月)「トランプべた褒め」文芸春秋に何があった?(24年3月28日 産経新聞オンライン無料版)

論壇時評4月号 産経新聞プレミアム特任編集長・菅原慎太郎 

 

記事

 

(1)少し前から「もしトラ」という言葉をマスコミ、論壇でもよく目にするようになった。もし米国大統領にあの悪名高い前大統領、トランプが返り咲いたら、世界も日本も大変なことになる―と今頃、慌てているのだ。

最近では次期大統領選はトランプ勝利でほぼ確実なのではないかという観測も強まり、「ほぼトラ」などともいう。

 

(2)「もし」でも「ほぼ」でもどちらでもいいが、要するに「トランプに大統領になってほしくない」というのが、少なくとも日本の論壇でも主流である。

右派・保守論壇ではトランプを評価する論客も結構いるが、彼が米国で反左翼(反リベラルと言ってもいい)の中心的人物となっていることもあって、左派はおおむね反トランプだ。

 

(3)月刊誌の雄「文芸春秋」

「トランプ氏に勝ってほしい」と掲げる米国共和党の前国務長官、マイク・ポンペオのインタビュー記事を特集トップで掲載した。

近年、左傾化が著しいと評価されている文芸春秋だが、一体、どうしてしまったのか。

しかも、インタビューの聞き手、北村滋は同誌が批判し続けた安倍政権で国家安全保障局長まで務めた人物。

左傾路線はどこへ行った…。同誌を褒めているのだ。

 

(4)「米国のハイテク大企業が中国の軍事力と警察国家の強化に最も加担」

なにしろ、ポンペオの話は率直だ。

「米国の世界的なハイテク企業ほど、中国の軍事力と警察国家の強化に加担した業界は他にありません」

「トランプ政権が経済的な強硬措置を取ることで、彼ら(中国)の世界制覇のシナリオを挫くことに成功したのです」

「トランプ氏に勝ってほしい。その方が国家のためになると思います」

ポンペオ自身から、次の次の大統領を狙う野心の言葉も引き出している。

「人生は何が起こるか分かりません。一体誰が大統領になり、さらに四年後にはどんな人生が待っているのか、自分でも見てみたいくらいです」

 

古き良き「反戦平和」

 

(5)文芸春秋の名誉のために書いておくと、同誌がこれで風見鶏よろしく左から右へUターンしたわけではない。このインタビュー記事もあくまで「日本地図から『新しい戦前』を考える」という特集の一環である。「新しい戦前」とは、言うまでもなく、防衛力強化を打ち出した今の日本を批判しようという左路線が好む反軍事、反戦平和の流行語。この特集名も極端に言えば、「安心してください、左翼ですよ」という注意書きかもしれない。ならばトランプ支持の記事など載せなければいいと思うかもしれないが、雑誌は売れなければ生きていけない。人はパンのみにて生くるものにあらず、されど反戦平和の信仰のみでも生きることはできない。

 

一方で戦後、反戦平和の全盛時代に論壇の権威だった「世界」は、そんな時代が終わっても、ぶれない。表紙は「トランプふたたび」「極端化と幻滅の果て」とトランプ批判。もちろんだからといって左翼、反戦平和とはかぎらない。保守にもトランプ批判は大いにある。ただ、ほかの特集も「人権を取り戻す」など、古き良き世界の権威が守られたものであった。世界は最近、表紙などでイメージチェンジしているが、編集長の堀由貴子は「中央公論」に登場して、世界の「立ち位置」についてこう答えていた。

「『平和のための言葉』といえばいいでしょうか、戦争の過ちを繰り返さないということと、人間の尊厳を基盤にするということですかね」

すばらしい旧態依然である。