新東名高速の建設現場、神奈川の天空に巨大な橋が出現[空中ルポ](24年5月16日 読売新聞オンライン無料版)

 

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写真 丹沢山地の急峻な谷で建設工事が進む新東名高速道路の河内川橋。慎重にドローンを近づけると、橋脚から延びたアーチの先端部付近に作業員らの姿が確認できた(神奈川県山北町で)

 

(1)新緑が輝く丹沢山地の南西部、神奈川県山北町に巨大な橋の建設が進んでいる。川面から橋桁までは30階建てのビルの高さに相当する最大約120メートル。あまりのスケールに、飛ばしたドローンと橋との距離感がつかみにくい。

 2027年度に全線開通予定の新東名高速道路(神奈川県海老名市―愛知県豊田市)で、唯一未開通区間の新秦野インターチェンジ(IC)―新御殿場IC間にある 河内川(こうちがわ) 橋。「バランスドアーチ」と呼ばれる形式の橋で、橋脚からバランスを取りながら橋桁を左右に延ばすと同時に、それを支えるアーチ部分も張り出していき、最終的に大きな橋を完成させる。

 

写真 東名(左奥から右手前に延びる道路)と新東名(右奥から左手前に延びる道路)が交わる伊勢原ジャンクション。交通量が多い東名に比べ、新東名を走る車は少ない。新東名の全線開通で、東名の渋滞緩和などが期待されている(神奈川県伊勢原市で)

 

(2)「 急峻(きゅうしゅん )な地形にこの規模の橋を造るのはなかなかの難工事ですが、環境に配慮し、安全かつできるだけ短い工期で建設するために様々な工夫をしています」。中日本高速道路の秋山 渉(あゆみ) ・山北工事区工事長は説明する。

 

 

 口を開けた顔のようにも見える先端部の足場は一辺約20メートル。移動式で、作業が進むと足場ごと動く。そのペースは2か月で6・5メートルほど。

写真 山北町は足柄茶の産地。河内川橋の周囲にも、日当たりのよい斜面に茶畑が広がる。新茶の季節を迎え、緑が明るく輝いていた

 

(3)オレンジ色のクレーンは「トラベラークレーン」と呼ばれ、こちらも工事の 進捗(しんちょく )に合わせて移動する。急斜面に立つ橋脚の麓に設けた作業スペースには、工事車両が通るために掘られたトンネルも。「経験豊かな作業員も、こんなのやったことがないと驚くことをたくさんやっています」

写真 建設が進む河内川橋の橋桁の上で、工事の状況を説明する秋山渉・山北工事区工事長

 

完成すれば、橋の長さは771メートル(上り線)、アーチ部分は220メートルで、バランスドアーチ橋としては国内最大級となる。

橋の西側には山北スマートICができる予定で、観光振興のために同県山北町は、橋の景観を楽しむ眺望スポットの整備などを検討している。

写真 新秦野ICから静岡県境までの約14キロの区間は、急峻な地形が続き、トンネルや橋が全体の約8割を占める。河内川橋から約4キロ東の現場では、「赤坂トンネル」の工事が進む(神奈川県山北町で)

 

(4)新東名が開通すれば東京、名古屋、大阪の3大都市圏を結ぶ新たな大動脈が完成。災害時などには東名高速道路の代替道路としても期待される。天空の建設作業は、今も続いている。(写真と文・上甲鉄、伊藤紘二)