鉄価格高騰、工事現場の「敷鉄板」盗難相次ぐ…クレーン付きトラックで大量に盗む手口も(24年5月14日 読売新聞オンライン無料版)

 

記事の概要

(1)序「1枚20万円を超える“高級品”も、クレーン付きのトラックで盗む」

(2)「敷鉄板7枚を盗まれ、リース会社への弁償額は約170万円」

(3)「福岡県内では2022年から敷鉄板が盗まれる事件が続発」

(4)「ふだんは建設現場の作業員」

(5)「鉄価格の高騰」

(6)「防犯費用で工事の入札金額が上がれば、落札できないかも」

(7)警察「金属売買に関する規制が不十分だ」

(8)「古物営業法」は金属スクラップは対象外

(9)「茨城県警は今後、条例改正案を県議会に提出」

 

記事

 

(1)序「1枚20万円を超える“高級品”も、クレーン付きのトラックで盗む」

工事現場に敷き詰めて、重機の通路として使われる「 敷鉄板(しきてっぱん )」が、福岡県などで盗まれる事件が相次いでいる。サイズによっては1枚20万円を超える商品もある“高級品”で、工事現場にクレーン付きのトラックで乗り付け、大量に盗む手口も。鉄価格の高騰を背景に売却益を得る目的とみられるが、工事現場の防犯は難しく、業者側も頭を悩ませている。(藤本鷹史)

写真 敷鉄板が設置された工事現場(14日午前、福岡市で、画像の一部を修整しました)=中山浩次撮影

 

(2)「敷鉄板7枚を盗まれ、リース会社への弁償額は約170万円」

「設置していた柵を撤去されて、盗まれた。ただ、警備員の常駐など、これ以上の対策は費用面を考えると難しい」

福岡県筑後地区の建設会社社長(60)は、こう漏らす。

 この会社は昨夏、河川工事の現場で敷鉄板7枚を盗まれる被害に遭った。リース会社への弁償額は約170万円にも上ったという。

 

(3)「福岡県内では2022年から敷鉄板が盗まれる事件が続発」

県警は昨年8月以降、配管業小野光秀被告(58)(常習累犯窃盗罪で公判中)ら男6人(29~58歳)について、同2~7月に福岡、佐賀両県の工事現場で敷鉄板の窃盗を繰り返した窃盗と建造物侵入の疑いで複数回逮捕した。

逮捕・起訴された分だけでも、被害は少なくとも100枚(被害総額900万円)以上に上り、更に広がる可能性がある。

 敷鉄板は工事現場などで使われ、ぬかるみで不安定な地面に設置して、重機がはまったり、工事車両のタイヤが汚れたりすることを防ぐ。

特に、整地用の土の運搬や資機材の搬入で重機などを使う初期の工事で不可欠という。

 

 

 

(4)「ふだんは建設現場の作業員」

一連の事件では、幅1・5メートル、長さ6メートル、重さは1・5トンほどの大型のものが狙われた。

6人はいずれも普段は建設関係などで働いており、現場などで知り合い、仕事で各地を飛び回る傍ら現場を選定。

作業員らがいなくなった時間帯にトラックを乗り付け、荷台に備え付けたクレーンで鉄板を積み込み、持ち去っていた。捜査幹部は「素人では簡単に運べないが、重機の扱いに手慣れていたからこそ可能だったのだろう」とみる。

 

(5)「鉄価格の高騰」

被害が相次ぐ背景には、鉄価格の高騰がある。

(鉄リサイクルの業界団体)

 鉄スクラップ価格(九州地方)は、19年は1トン2万~3万円台だったが、23年には同4万~5万円台、今年も同5万円台と、約5年で2倍近くに上がった。ロシアによるウクライナ侵略の影響で資源不足への懸念が広がったことなどが原因という。

 6人は「鉄は高く売れると思った」などと供述。1枚8万円程度で買い取り業者に売却し、生活費や借金返済などに充てていたという。

 

(6)「防犯費用で工事の入札金額が上がれば、落札できないかも」

警備会社「ALSOK(アルソック)」は工事現場の防犯対策について、防犯カメラを設置して24時間体制でチェックするシステムなどを挙げ、「常時警戒していると犯人側に示すことが重要」と指摘する。

ただ、工事現場は広範囲に及び、敷鉄板を使うのは工事中の一時的な期間であるため、防犯対策にどれだけ費用をかけるかについては悩ましい問題だ。

ある工事関係者は「防犯費用を踏まえた結果、工事の入札で提示金額が上がり、落札できないような事態は避けたい」と話す。

 

福岡県警 買い取り側も捜査

 

(7)警察「金属売買に関する規制が不十分だ」

福岡県警は、6人が売却した業者についても、盗品と知りながら複数回買い取った可能性があるとみて、盗品等有償譲り受け容疑で捜査している。

捜査関係者は「そもそも買い取る業者がいるから盗む。規制しなければ事件は繰り返される」と強調。業者への取り締まりを強化する考えを示すが、「金属売買に関する規制が不十分だ」とも指摘する。

 

(8)「古物営業法」は金属スクラップは対象外

盗品の売買防止を目的とする「古物営業法」は、買い取る際に売り主の身分確認を義務づけているが、金属スクラップは対象外だ。買い取り業者には営業許可も必要なく、関東圏では太陽光発電施設の銅製ケーブルを狙った窃盗事件も多発している。

 

(9)「茨城県警は今後、条例改正案を県議会に提出」

買い取り業者に身分確認や取引記録の保存などを条例で義務づける動きも出ており、茨城県警は今後、条例改正案を県議会に提出する予定で、千葉県警は4、5月に条例案策定に向けたパブリックコメントを実施した。