「省インフラ」で地域の持続を優先…電気と水「自給」・ドローン配送で過疎地の生活を維持(24年5月14日 読売新聞オンライン無料版)

[ニッポン2050]第1部 変わる暮らし<上>

 

記事

 

(1)序「持続する人口縮小社会で」

2050年、人口減少が進む日本の姿はどうなっているだろうか。

読売新聞は少子化の加速を抑え、将来にわたり社会の活力を維持するための対策を提言した。

総人口は約1億2400万人から56年に1億人を割るとの推計もある。想定される課題に我々はどう向き合い、どのような社会を目指すのか。その道筋を探る。

 

移動できる家

 

 

 

(2)「良品計画の子会社がハウス提案」

電気も水道も通っていない豊かな自然の中で暮らす――。

良品計画の子会社「MUJI HOUSE」(東京)は4月、千葉県南房総市の海辺で、そんな思いを具現化した住宅「インフラゼロハウス」を公開した。

 

(3)「太陽光パネル、浄化再利用水、排泄は微生物任せ」

約12平方メートルワンルームの電力は屋根や壁面の太陽光パネル、シャワーなどに用いる水は生活排水の浄化・再利用システムでまかなう。

トイレは水を使わず、微生物が排せつ物を分解し、トイレットペーパーも処理。

床下に車輪を備え、 牽引(けんいん )車で移動できる。

 

(4)「過疎やインフラの維持管理という課題の解決案」

2025年の実用化を目指す。「人口減社会で過疎やインフラの維持管理が課題となった際の住まいのモデルになる。災害にも強い」と、同社の川内浩司・商品開発部長(65)。

政府が50年までに目指す、温室効果ガス排出量を実質ゼロにするカーボンニュートラルの実現にも沿うため、様々な企業が同様の住宅の開発に乗り出す。「インフラが自立した家は50年には主流になるかもしれない」

 

「空の道」で物流

 

(5)「ドローン開発会社はドローンを生活インフラに」山梨県小菅村

「ドローンを生活インフラとして、全国どこでも平等な配送サービスを提供する」。ドローン開発のエアロネクスト(東京)の田路圭輔代表(56)は話す。

事例

1)山梨県小菅村。ドローンデポと呼ばれる拠点から、日用品を積んだ全長1・7メートルのドローンが飛び立つ。緑濃い森の上を一直線。集落の着陸ポイントに静かに接地して荷物を切り離すと、再び拠点へ戻る。

2)21年からドローンの配送事業を始め、現在は全国8市町村で実施する。

3)いずれも、住民が買い物に不便を感じ、事業者も配送コストに悩む過疎地域。今後数年で800超の自治体に事業を拡大する考えだ。

4)空が道路のように使われる50年を思い描く。

「物流が担保されれば、生活を維持できる。昔は買い物に行くのが大変で、と振り返るような時代になっている」

 

(6)「道路や水道などのインフラの更新」

(野村総合研究所)

道路や水道などのインフラの7割超が30年以降に更新時期を迎える。

(国土交通省)

全国約73万の道路橋の75%、約1万1000のトンネルの53%が40年に建設50年以上となる。

(東洋大の根本祐二教授(公共政策))

「全てのインフラを維持することは困難だ。利便性ではなく持続可能性を優先し、必要な分を確保する『省インフラ』の考え方が必要だ」と話す。

 

「第二の自治体」

 

(7)行政システム「住民と企業の共助で自治体業務を補完」奈良市の月ヶ瀬地域

地域の課題解決に取り組む企業「パラミタ」(東京)の林篤志共同代表(38)は「人口減社会で求められるのは共助。住民と企業が連携し、自治体業務を補完する『第二の自治体』が必要」という。

モデルケース

人口約1200人の奈良市の月ヶ瀬地域だ。

1)今年4月、パラミタや地域おこし協力隊員、住民でつくる「ローカルコープ大和高原」が中心となり、資源ごみの回収やコミュニティーバスの運行を始めた。

2)市などによると、事業を通じて住民の共助の意識を高め、住民主体の取り組みに移す。

事業の収益は、将来的に住民が使途を決め、地域に還元することも目指す。

3)月ヶ瀬で3人の子を育てる松本直之さん(40)は「ここで暮らし続けるためにできることを考えたい」と言う。

 

(8)「小さな地域で住民と共感する人が共同体をつくることで地域を維持」長岡市の山古志地区

新潟県長岡市の山古志地区

「ネオ山古志村」が発足した。

住民団体の山古志住民会議が発行する電子住民票を購入した、地区外に住む約1700人の「デジタル住民」と、地区住民をつなぐ場だ。

オンラインや山古志で集会を開くなどして地区の課題解決にあたる。

住民会議の竹内春華代表(43)は「小さな地域でも住民と、共感する人が共同体をつくることで地域を維持できる」と考える。

 

(9)「自立 国家や自治体に依存しないという意味での自立」

人口減少は住民自治を考えるきっかけになる。

(立命館大の中西典子教授(地域社会論))

「今後は住民が自立した街づくりが必要だ。行政にはその支援が求められる」と話す。

 

■白紙から設立した自治体・ジョージア州サンディスプリングス市の「民営」戦略

https://www.jlgc.org/ja/09-04-2012/4590/

2012-09-04

概要:

公務員をほとんど雇わずに民間事業と契約を結び市民にサービス提供を行っているアトランタ市

 

郊外の都市の最新情報

米国ジョージア州の人口約94,000人のサンディスプリングス市(City of Sandy Springs)は州都アトランタの郊外にある。同市は富裕層の多い地域で、2005年までは貧富の差の大きなフルトン郡(Fulton County)の直轄地であったが、同郡のサービス提供等に対して不満を抱き、長年独立(自治体の設立)を目指していた。

しかし、州議会では当時与党であった民主党の反対でブロックされていた。その後2005年に、独立運動を支持した共和党が州議会の両院の与党となって自治体設立に必要な住民投票が認可され、サンディスプリングス市はその結果により設立された。

 

独立運動のリーダーの一人であったオリバー・ポーターさんは保守派のレーガン大統領や自由市場資本主義を訴えた経済学者のフリドリッヒ・ハイエクのファンであり、自分の職業人生も民間会社で過ごしたので、できれば、市の運営は普通の市役所のような公共組織が行うよりも民間企業に委ねたほうが望ましいと考えていた。

したがって、一番スピーディで効率的に市の組織を立ち上げる方法として、さまざまな運営・管理業務を実施する民間企業の間で競争入札を行い、最も低コスト・高能力の入札者を選ぶことにした。

同市は最終的にはCH2M Hill社と契約を結び、5年半の間、同社が警察と消防を除くすべての行政サービス提供を担当した。公務員を雇わずにCH2M Hill社にサービス提供を委託したおかげで、数百万ドルの節約ができたそうである。

 

市政管理者(City Manager)のジョン・マクダノー(John F. McDonough)さんによると、当初は、警察及び消防の業務はフルトン郡と契約を結んで提供してもらっていたが、不満があって2006年7月に警察を、そして同年12月に消防局を、通常のやり方で公務員として職員を雇って設立した。

両方ともいくつもの賞をもらったりして評判が大変良いそうである。警察官と消防士は合計で265人ぐらいで、市政管理者等7人の市の管理職を含めると約270人が正式な公務員である。それにおよそ165人の契約職員が加わって市政を運営している。

 

「他の都市の場合は、民間企業に委託を試みて失敗した例が多い」

ニューヨーク市では教育・保育・住宅・医療等に関する委託事業費の不正使用事件が続発した。このような悪例は大都市から田舎町まで多く存在する。

委託事業やアウトソーシングがうまくいかない根本的な原因の一つは、契約書の書き方である。契約書によって管理の仕組みが決まるので、工夫して書かないと、後にさまざまな問題が生じかねない。サンディスプリングス市の場合、最初のCH2M Hill 社との契約に業績評価の仕組みはまったくなかった。その後、業績の測定・評価の仕組を開発してきた。その一環として、サービスの提供者は入札時に独自の業績評価基準の提供も義務付けられ、サービス提供の評価にそれを利用する。同基準と発表の義務は市によって定義されている。2011年の委託制度の改正によって、すべての委託事業に対して業績測定・評価の仕組みが導入され、これを反映する契約書を作成し、適用している。

また、意思決定を速やかに行い、経費節減につなげるため、受託会社から派遣される各部局の局長(department director)は「現場監督」(“on-site lead”)の役割を果たし、ほとんどの場合の意思決定が一人でできるようになっている。各受託会社に、契約に関連する課題を担当する「事業長」(project executive)も一人ずつ置かれている。

 

委託事業を管理するために三種類の情報収集も行う。

1)一つは市の管理部門に毎日提供されるデイリー・レポートである。各部局の活動を数字や統計で表し、主な出来事も伝える。なお、これをまとめ、毎週月曜日に局長等、市の管理職が集まり、前の週のレポートと今週の予定について打ち合わせをする。それから、サービス提供に関する課題を市長、市議会議員等にも毎週報告する。

2)もう一つは、受託会社から四半期ごとに市政管理官室に提供される四半期レポートである。このうち毎年一月に提供される報告は、市政管理者が市政の中間報告に取り入れて市議会に報告する。

3)三つ目の情報源は市民からのフィードバック。

311(非緊急の苦情・相談受付電話番号)への電話は毎週およそ2,300件もあり、スタッフがその内容から把握する主な課題を管理職に伝える。

これと合わせて、場合によっては、一団の市民を選んで意見を徴収し、市民やビジネスのニーズを満たしているかどうかを確認する、フォーカス・グループ(focus group)と呼ばれる調査手法も用いている。

最近では、フォーカス・グループを連続して開催し、市民はどのようなパフォーマンス目標を取り入れてほしいと考えているかを調べ、改善されたパフォーマンス測定システムにこれを幾つか加える予定である。

 

「他の市でも行政サービスの提供を民間に委託する例」

サンディスプリングス市の「先輩」ともいえるフロリダ州のウェストン市(City of Weston)は、1996年に設立され、警察と消防まで委託している人口65,000人の町である。サンディスプリングス市と同じように、大都市マイアミの郊外にある富裕層の多い地域で、もともと郡の管轄下にあった。

市職員はたった9人で、およそ285人の常勤の委託職員を管理する。もう一つの最近の例は、カリフォルニア州のメイウッド市(City of Maywood)である。2010年に、財政赤字も多少あったが、一番大きな問題は、市を被告とする多数の損害賠償請求訴訟が起こったことで、市職員の活動に伴って生じる市の賠償義務をカバーする保険を提供する保険会社がなくなり、警察や消防活動ができなくなり、仕方なく市政管理官を除いて市職員をすべて解雇した。

ただし、サンディスプリングス市やウェストン市のように民間企業に委託したのではなく、ロス・アンゼルス郡が警察と消防活動を担当し、その他のサービス提供は隣の町に委ねたのである。

サンディスプリングス市やウェストン市は、ほとんど白紙の状態から設立された市であるため、行政組織に関する制限は通常より少なく、斬新なものにできる自由があった。しかし、そうした自由がなくとも、行財政難に陥っている市町村も、この例を見て自分にふさわしい解決策を考慮しても良いであろう。

 

2012年9月4日