外食、円安対策で海外店舗4割超 すかいらーく全米50店(24年5月13日 日本経済新聞電子版)

 

(記事への投稿)

1)別の視点 森幹晴(弁護士・東京国際法律事務所 代表パートナー)

確かに円安は海外進出の一因だろう。しかし、一部の外食産業は2010年代から着々と海外進出を進めていた。

外食産業の海外進出を支援してきた経験からすると、国内市場の縮小、海外の成長力の方が要因として大きいと思う。

海外進出はコロナの影響で一時停滞したが、再び活発化している。海外市場を含めた経営方針をとらなければ、企業の成長は難しいだろう。これは外食産業に限ったことではないのではないか。

日本企業全体に言えることとして、コスト削減で利益を出す発想も重要であるが、縮こまり体質を改め、積極投資を行い、成長する海外市場を取りに行くことが重要ではないか。

 

2)分析・考察 小野亮(みずほリサーチ&テクノロジーズ 調査部 プリンシパル)

行き過ぎた円高が製造業の海外流出を招き、今度は行き過ぎた円安が非製造業の海外流出につながる、その前兆なのでしょうか。

前者に関しては、内閣府の短期経済予測モデルの乗数の劇的変化にも現れてます。

モデルは数年おきに更新されますが、リーマンショックを境に円安が輸出に与える影響は実質的にゼロへ。

どの為替水準が適切なのか、容易には分かりませんが、企業が安定的に国内で事業活動を続けられる事、というのは必要条件の一つのように思います。

 

 

記事

 

(1)【この記事のポイント】

・為替リスクを相殺し成長を目指す動き

・稼いだドルをそのまま食材購入に活用

・日本に比べ、海外は値上げをしやすい

 

(2)外食企業が海外に出店の軸足を移す。

すかいらーくホールディングス(HD)は米国でしゃぶしゃぶ店を展開し、食材を現地調達して費用を抑える。日本経済新聞の集計で国内大手の海外店舗比率は2023年度に初めて4割を超えた。歴史的な為替の円安下、内需型産業の代表である外食が製造業と同様に為替リスクを相殺して成長を目指す動きが広がってきた。

 

(3)国内外食の売上高の上位企業のうち、店舗展開が国内にとどまる日本マクドナルドHDを除く上位10社を対象に、直近の決算期末の海外店舗数を集計した。

10社の海外店舗数は約1万3000店舗に達し、店舗数全体の42%を占めた。新型コロナウイルス禍前の19年度末時点では海外比率は29%。4年で一気に13ポイント上昇した。

 

 

 

吉野家HD

 24年度には吉野家HDが牛丼店「吉野家」で前期比9%増の125の出店を計画する。

牛丼店「すき家」

 ゼンショーHDは前期(約600店舗)を上回るペースで出す見通しだ。

焼肉店「牛角」

 展開するコロワイドの23年度末の店舗数は389店舗と19年度末から7割増えた。

サイゼリヤ

 中国などの海外店舗数が18%増えた。

大手外食全体の海外店舗数はさらに増え、数年内に国内を逆転する見込みだ。

 

(4)製造業では円高の為替リスクを減らすため、海外での現地生産化が進んだ。

トヨタ自動車の23年度の海外生産比率は約67%。日産自動車は約79%に及んでいる。

為替は一時1ドル=160円台と歴史的な円安となった。円相場は乱高下しているものの円安基調が続く。外食にとって円安は輸入食材の調達コストを押し上げる。価格転嫁できなければ、原価上昇で収益が圧迫される。

長らくデフレが続いていた日本に比べ、海外は値上げをしやすい。外食企業が外貨を稼ぎ、食材コストを抑制できる海外事業を強くできれば、為替による業績変動リスクの軽減につながる。

 

外食の海外事業は収益を左右し始めている。

サイゼリヤは国内では値上げを見送る一方、海外では価格転嫁が奏功し、23年9月~24年2月期の連結営業利益のうちアジア事業は2.3倍の55億円と利益の大半を海外で稼いだ。

一方、海外店が少ないすかいらーくHDは23年度に円安などが92億円の減益要因(営業利益ベース)となった。

 

(篠原英樹、佐藤優衣)