企業利益、海外に滞留10.5兆円 昨年度、還流生む税構想も(24年5月11日 日本経済新聞電子版)

 

記事

 

(1)企業が海外で稼いだ外貨が日本に戻らない。

海外子会社にとどまる利益は2023年度に10兆5687億円と10年前の約3倍に達した。

国外に滞留する外貨は中長期で円安圧力になるため、国内への還流を促す税制優遇措置を導入する案も出ている。

 

 

(2)企業が国外投資から得る収益は、海外とのモノやサービスなどの取引状況を示す経常収支に表れる。

(財務省が10日発表した国際収支統計(速報))

 1)「経常黒字」23年度の経常黒字は25兆3390億円と22年度から約2.8倍に増え過去最高。

 2)「第1次所得収支」外国投資で得た利益などを計上する第1次所得収支は35兆5312億円と過去最高。

 3)「証券投資」債券や株式投資などを含む「証券投資」が12兆8169億円、

 4)「直接投資」海外子会社からの配当金など「直接投資」は20兆7974億円だった。

直接投資の黒字幅拡大は海外事業の展開や現地生産を増やす日本企業の好調な業績を反映する。円安による収益の円建て換算額の上昇も大きい。

 

(3)「海外子会社の内部留保」(為替変動リスクなし、通貨交換取引コスト不要)

民間企業の外貨収入が増える中でふくらむのが海外子会社の内部留保だ。

外国での稼ぎを親会社に回さず、現地の設備投資やM&A(合併・買収)にあてる。為替変動リスクを避け、通貨交換取引のコストもかからない。海外留保が増える分、投資で得られた利益は国内に還元されていない。

 

(4)財務省は国際収支の構造変化を受け、有識者による懇談会を3月に立ち上げた。初回の会議では委員から「海外での稼ぎが必ずしも国内投資や実質賃金の上昇につながっていない」と問題視する声が上がったという。

 

(5)資金還流を生み出すことができれば、円高方向へと通貨の需給を転換させられる可能性がある。

具体策の一つが、海外内部留保を円に交換する「リパトリエーション」を実施する企業に対する税制優遇だ。「リパトリ減税」ともよぶ。経済産業省内には円安対策の観点で推進する構想がある。水面下で企業の反応を探っているという。

日本は株式保有25%以上の海外子会社から受け取る配当益の95%を非課税とする制度を導入している。二重課税を防ぐ狙いだ。残りの5%も非課税にするなど拡充の余地があるとの指摘がある。

みずほ銀行の唐鎌大輔チーフマーケット・エコノミストは「効果は限定的かもしれないが、政府の姿勢を投機筋に示すこともできる」と話す。

 

(6)対ドルの円相場は3月以降、34年ぶりの円安水準が続く。為替介入には限界があり、海外当局の理解も必要になる。民間の外貨を活用するリパトリ減税は代替手段になり得るとの見方がある。

 

<私見:

海外子会社が日本に送金するためには、ドル売り円買いをするから円高傾向になる。日本に環流すると本社の収益が増加し、環流分の一部は税金、一部は本社の社員の賃金が上がるかもしれないが、大部分は株主の配当に回る方が多いと思う。配当が増えた株主は、海外の株を買うために円売りドル買いをするから、ふたたび、円安傾向に戻るのではないでしょうか>