〈ビジネスTODAY〉iPad Proに新半導体 アップル、処理速度最大1.5倍 生成AI挽回へ布石(24年5月9日 日本経済新聞電子版)
記事【シリコンバレー=中藤玲】
(1)要点「6月にも示される生成AIの新戦略への布石」
米アップルがタブレット端末の最上位機種「iPad Pro」の次期モデルに、最新半導体の「M4」を搭載した。人工知能(AI)アプリを端末上で動かせるよう高速処理に特化したのが特徴で、出遅れるAIで反転攻勢を狙う。6月にも示される生成AIの新戦略への布石という位置づけだ。
写真 新型機では書類に影が映り込んでも、AIできれいにスキャンできる(7日のオンライン発表会)
(2)7日にアップルが開いたオンライン発表会。最上位機種「iPad Pro」(16万8800円~)の紹介は、厚さが5.1ミリメートルの「アップル史上最も薄い製品」に様々な機能が詰まっている、というメッセージだ。
薄さと同じくアップルが強調したのは、頭脳となるM4の性能だ。前モデルに搭載した第2世代の「M2」よりもCPU(中央演算処理装置)の処理速度が最大1.5倍になった。画像や動画を出力する「レンダリング」も最大4倍高速になった。
(3)AIで画像や動画を効率的に編集できる。
例えば4K動画の背景から、タップするだけで対象物を抜き出せる。
(アップルのプラットフォームアーキテクチャー担当ティム・ミレット氏)
「M4はAIのための圧倒的にパワフルなチップ(半導体)だ」と繰り返し強調した。
(4)アップルは生成AIの分野でライバルに出遅れてきた。
「Chat(チャット)GPT」を手掛ける米新興オープンAIと提携する米マイクロソフトには、時価総額で逆転を許した。
米アマゾン・ドット・コムは生成AIの新興企業に巨額の資金を投資して、マイクロソフトとオープンAI連合に対抗する。
(5)「6月の年次開発者会議「WWDC」で披露が見込まれている生成AIの新機能」
挽回のための一手として注目されているのが、6月の年次開発者会議「WWDC」で披露が見込まれている生成AIの新機能だ。AIを効率よく動かせるM4が初めて搭載されたiPad Proは、WWDCへの布石とも言える。
(6)iPadは創業者の故スティーブ・ジョブズ氏が10年に発表し、世界のタブレット端末市場を引っ張ってきた。だが近年は低迷が続く。
タブレットやスマホの販売で生成AIブームに乗ろうとするのは、ライバル各社も同様だ。
韓国サムスン電子は1月に、通話中の会話を同時に翻訳する機能をスマホの新機種に搭載した。
米グーグルもAIの処理を高速化し、集合写真に写る人の表情を入れ替える機能などを開発している。
(アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO))
発表会で「iPadは持ち運びやすくて多彩な唯一無二のデバイスだ。重要性の高い仕事をどこにいてもできる」と述べた。だが、目新しさがアプリなどの「外側」ではなく半導体という「内側」だったことで消費者の反応は限定的だった。
7日の米株式市場でアップル株は、前日終値とほぼ横ばいで取引を終えた。
(7)音楽プレーヤーやスマホで世界を変えてきたアップルが、AI時代にどのような革新を起こすのかは今のところはっきり見えない。市場の関心は高性能のM4ではなく、早くも6月のWWDCに移っている。