米経済、本当に強いか 5指標で分析 所得上位層の消費底堅く 高金利、住宅・景況感に影(24年5月9日 日本経済新聞電子版)
記事
(1)米国の景気に、市場の関心が集中している。
インフレ鈍化と米利下げの行方が投資マネーの流れを大きく変える可能性があるからだ。
8日の外国為替市場では米金利高止まり観測から円相場が1ドル=155円台に下落した。日欧に比べて米国「1強」ともいわれるが、直近の景気指標をみると強弱が混在する。
5つの代表的な指標から現在地を探った。
グラフ
1)個人消費は堅調
2)雇用の過熱感は和らぐ
3)金利高で住宅販売は低迷
4)企業の景況感は「不況」水準
5)物価はなおFRBの目標上回る
(2)(米商務省)「毎月の小売売上高」
毎月発表する米小売売上高は、直近の3月で前月比0.7%増と市場予想を上回り、2カ月連続で前月比プラスとなった。米国内総生産(GDP)の7割を占める個人消費は、長引くインフレ下でも底堅い。
(米レイモンド・ジェームズ・インベストメント・マネジメントのマット・オートン氏)
1)物価高や高金利で低所得層の消費余力が細る一方で、
2)「個人消費の多くを占める上位50%の所得層は、引き続き健全な状態」と指摘。
(3)(米労働省)「4月の雇用統計」
米消費を支えるのは底堅い労働市場だ。
米労働省が3日発表した4月の雇用統計
1)非農業部門の就業者数
前月から17万5000人増え、市場予想を下回った。だが3カ月移動平均でみると24万2000人で、新型コロナウイルス流行前の2019年の月平均(17万人弱)を大幅に上回る水準で推移する。
2)4月の失業率
3.9%と前月から0.1ポイント上昇し、
3)平均時給の伸び
市場予想を下回った。
全般的に労働市場はコロナ禍後の過熱感が徐々に和らいでいるが、まだ冷え込みからは遠い状況だ。
(4)「米中古住宅販売件数」
もっとも金利の高止まりで、米中古住宅販売件数は3月に前月比で4.3%減少し、約1年半ぶりの減少率の大きさを記録した。
(5)「企業の景況感」
(米サプライマネジメント協会(ISM))
4月の米非製造業(サービス業)景況感指数
前月から2ポイント低い49.4となり、好不況の分かれ目となる50を1年4カ月ぶりに下回った。3月に50を上回った製造業の景況感指数も4月に再び50を下回り、いずれも不況水準に落ち込んだ。
(6)(米労働省)「3月の米消費者物価指数(CPI)」
米経済の最大の懸念材料はインフレだ。
1)米労働省が発表した3月の米消費者物価指数(CPI)は前年同月比の上昇率が3.5%と2カ月連続で伸びが加速した。
エネルギーと食品を除く「コア指数」も同3.8%と前月から横ばいだった。
2)(米連邦準備理事会(FRB)パウエル議長)
1日の米連邦公開市場委員会(FOMC)後の記者会見では「ここ数カ月のインフレ率は我々の物価目標である2%に向けたさらなる進捗を見せなかった」と語った。再利上げ論には否定的な見方を示したものの、利下げに動くにはインフレ鈍化の証拠を確認する必要があると強調した。
(7)「スタグフレーション」
金融引き締めの持続が適度な景気減速につながり、インフレを冷ます軟着陸につながる展開をFRBは期待する。
だが市場では「引き締め過ぎ」が景気の急減速を招いたり、景気が冷え込む一方でインフレは高止まりするスタグフレーションに陥ったりすることを懸念する声もある。
(ニューヨーク=佐藤璃子)